■「殺せんせーを演じる自分もみんなから何かをもらわないと成り立たないと思った」
福山 僕も上江洲さんの言動にはずいぶんと助けられてきましたから、キャスト陣を劇団にたとえる気持ちは分かる気がします。とくに『暗殺教室』では最初に「セリフで相談があるならなんでも言ってください」と言ってくださって、僕としてはすごく助かりました。
上江洲 『暗殺教室』では福山さんがコンダクターとしてはっきりした振る舞いをしてくださったので、僕らとしてもとてもやりやすかったですよ。
福山 『暗殺教室』は、僕の中ではスペシャルな作品なんです。僕はあの作品で初めて後輩たちと深く関わることになったんですが、もし殺せんせーを演じていなかったら、いまこうして事務所を構えて養成所をやっているか分からないくらいです。
上江洲 たしかに福山さんはこの作品でかなり印象が変わりましたね。それまではどこか一匹狼な雰囲気でしたから。
福山 そうですね。それまでの僕は過度に人に関わらないと決めていたんです。アドバイスや指摘をすること自体がおこがましいと感じていましたし、関わり方もよく分からなかったんです。ただ、僕の中でより良い作品にするための指摘というのは正義なんですけど、それは一歩間違えば相手を傷つけてしまうし、下手をすれば破壊行為にも繋がる。ひと昔前の大らかな時代であればなんの問題もなかったことでも、今はずいぶんと違いますしね。
上江洲 もちろん、言い方にもよりますけど、なかなか注意や指摘がしにくいご時世ではありますね。
福山 なので、意見の提示はしてもそれを受け入れるかどうかは相手の自由で、決して「こうしろ」とまでは言わないスタンスでいました。けれど、この作品に限っては、そのスタンスのままではうまく立ち行かないだろうと感じたんですね。
殺せんせーは生徒たちを教育しながら自分が死ぬ未来へと生徒を導いていくんですけど、それは決して一方通行な教育ではないんですよね。殺せんせーも生徒たちからたくさんのものを受け取っていて、それらを積み上げることでようやくあのクライマックスにたどり着けるわけじゃないですか。それなら、殺せんせーを演じる自分もみんなから何かをもらわないと成り立たないと思ったんです。
これまでのやり方を変えてうまくいく自信はなかったですし、完璧にできたというわけでもありませんけど、でもそういう風に後輩たちに深く関わっていなかったらあのクライマックスの芝居はできなかったんじゃないかなとも思っていて。そういう意味で、人生で転換点になった作品なんですよね。
上江洲 あれから5年ほどが経ち、いまこうしてお話を伺ったことで、僕の中ですごく合点がいきました。以前の福山さんは人生で楽しいことはあるんだろうかと思われるくらいほんとうにクールでしたよね(笑)。
福山 ああ、岡本(信彦)からそんなことを言われましたね。
上江洲 そのとき福山さんは「無用な衝突を生まないようにしているんだ」と答えていて、それを横で聞きながらおもしろいなあと思っていました。でも『暗殺教室』は我々スタッフとしても、人生でここまで入れ込んだことはないというくらい前のめりになりましたから、思い出深い作品です。
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現在発売中の『声優MEN vol.19』では引き続き2人の対談を掲載。『暗殺教室』そして今後の展望について語っている。
■福山潤 PROFILE
11月26日生まれ、大阪府出身。2007年、初代声優アワード主演男優賞。『無敵王トライゼノン』で初主演。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ルルーシュ・ランペルージ)、『中二病でも恋がしたい!』(富樫勇太)、『青の祓魔師』(奥村雪男)、『暗殺教室』(殺せんせー)、『真夜中のオカルト公務員』(宮古 新)、『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』(小雪芹)など。近年はアーティストとしても活躍。
■上江洲誠 PROFILE
大阪府出身。脚本家・黒田洋介氏に師事。2002年に『陸上防衛隊まおちゃん』で脚本家デビュー。以降、数々のアニメのシリーズ構成・脚本を務める。近年の代表作に『暗殺教室』、『アルスラーン戦記』、『乱歩奇譚 Game of Laplace』、『この素晴らしい世界に祝福を!』、『クズの本懐』、『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』、『ラディアン』、『空挺ドラゴンズ』、『結城友奈は勇者である』など。