『ぼくらのよあけ』朴璐美×黒川智之監督
『ぼくらのよあけ』朴璐美×黒川智之監督

“未知の存在”と出会った小学4年生・悠真(CV.杉咲花)たちの冒険と成長を描いた、SFジュブナイル映画『ぼくらのよあけ』が、現在公開中。宇宙やロボットへの憧れや、異なる存在との友情、親子の関係や前思春期ならではの複雑な友人関係など、多種多様の要素がひとつのドラマに織り上げられている作品だ。

この物語の起点となる“未知の存在”こと、遠い星からやってきた人工知能「二月の黎明号」の声を演じた朴璐美は、本作を手掛けた監督・黒川智之が15年前の初タッグ以来、深く信頼する声優。二人のざっくばらんなトークを第1回・第2回とお届けしてきたが、最終回の今回は、二人が本作でもっとも惹かれた要素を語ってもらった。(全3回)


対談第1回第2回はこちら

 

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“知りたい”という、すべての欲求の源にある普遍的な想い

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

――朴さんが演じられた「二月の黎明号」は、遠く「虹の根」という星で生まれた無人探査機の人工知能ですね。1万2千年という歳月をかけて地球に辿り着いたという、私たちの感覚とはまるで異なる存在ですが、役の参考にされたものや資料などはありましたか。

 

朴 璐美(以下、朴) 参考にしたものはありませんでしたが、感じるものはとてもありました。「虹の根」では一度生命体が滅びたものの、人工知能に“知りたい”という想いだけが残って、それが宇宙へと旅立ち、1万2千年かけて、地球に辿り着く。それって、なんて普遍的なテーマを抱えた存在なんだろうと思います。結局みんな“知りたい”がために外に出る。この想いがなければ、外に飛び出すなんてことはしない。“知りたい”っていうのは、ごくあたりまえの純粋な欲求、唯のとても強いエネルギー、誰もが自分の血の記憶の中にもつ普遍的なエネルギーなんだということを改めて気付かされましたね。私もそこを大切にしたいと思いました。でも作品全体を考えると、この「二月の黎明号」の想いは前面に出して表現するものではないところが難しかったです。“知りたい”という、生命の当たり前の欲求。それがあるから進化できる、重要なもの。それを自分の声音として表現できていたらいいなと思います。

 

――本作は様々な要素が見事に描かれている作品ですが、朴さんがもっとも惹かれたのはそこだったんですね。

 

 私はそこですね。すべての欲求の源ともいえる“知りたい”という想い。

 

――「二月の黎明号」が地球までやってきた動機、彼を突き動かす“知りたい”という想いは普遍的で、本当に胸を打たれます。

 

 地球もいつか「虹の根」のようになってしまうかもしれない・・・という予感めいた感覚がありますよね。この作品には「宇宙船を宇宙に飛ばそう!」というだけの単純なお話ではない、とても大切なメッセージが含まれた物語だと思っています。

 

中高生ではなく「10歳の少年」だからこそ描けたもの

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

――黒川監督が一番惹かれたのは、本作のどの要素でしょうか。

 

黒川智之監督(以下、黒川監督) 子ども同士の関係性、子どもたちと親との関係性、ナナコのようなAIとの関係性、「黎明号」という地球外生命体との関係性。まあ親との関係性というのは、カッコで社会という言葉が入ると思うんですが、この関係性をそれぞれ描いている作品ならいくらでもあるんです。子どもたちと宇宙人のドラマとか、子どもと親とのドラマとかね。でもこの四つすべてを取り上げて一つの作品で描き切った作品は、少ないんじゃないでしょうか。少なくとも僕の知る限りではありません。そこが原作を読んだときに一番感動して「これは2022年にやる価値がある、やるべき作品だ」と思ったところですし、原作最大の魅力なんじゃないかと思います。

 

――おっしゃる通り、それぞれの関係性が生む葛藤や感情、そこから発生する出来事、そのどれが欠けてもこのラストには辿り着けませんよね。私がこの作品でもっとも惹かれるのは、悠真たちとナナコや「二月の黎明号」という、生きる時間も思考回路も成り立ちも異なる者同士が友達になったというところです。悠真たちはどうして、自分とまったく違う存在と友達になれたと思いますか。

 

黒川監督 これは朴さん演じる「黎明号」も言っていますが、やっぱり“変化できる”ということに尽きると思います。どうしても人間はいろんなものに固執しがちですが、自分と異なる価値観の存在や立場を受け入れて、変化することを恐れないことが重要。それは10歳の少年だからこそリアルに描けるんです。これが中学生・高校生が主人公になると、またちょっと違う話になってくると思うんですよね。変化を恐れず、むしろワクワクドキドキできるのは、子どものある種の特権じゃないでしょうか。

 

 本当にその通りだと思いますし、この作品がひとつのメッセージになってくれたら、すごく嬉しいですよね。「自分と違うから否定して触らない」じゃなくて、悠真たちのような「違うからこそ知りたい、触れてみたい」という気持ちを、みんなが持ち合えたらいいなって。この作品を通して、観てくださる人たちの心に届くといいなと思います。

 

 

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