「『成れ果て村』は広いけど狭い、『閉じた世界』」
――第2期の主な舞台である「成れ果て村」は、どんなイメージで作っていかれたのでしょう。
「アビス」の穴って果てしなく広いイメージがあるじゃないですか。けれど、「成れ果て村」って巨大な塔みたいな感じがしていて、完全に閉じた世界なんですよね。その閉じた世界というのが本作のテーマ性とも響き合っていると思っています。だからこそ、その空間をどう見せるべきかを考えましたね。とくに気をつけたのが「成れ果て村」の背景の描き方。壁らしいものが奥に常にあるという描き方をしていて、それによって広いんだけど狭い、閉塞感はないんだけど、「閉じた世界」であることをレイアウトで示しています。
――それだけ美術をきめ細かく作られていった、と。
例えば、なめる画を作る(手前に人物ものを置いた画角)だけで、空間の尺度、距離感が出てくるわけです。あとは遠くのものを画面の中に写すとか、細かい工夫を美術設定の菱沼(由典)さんと相談してやっていきました。
――村に住まう、異形の存在「成れ果て」たちのデザインは、愛らしさもあれば、不気味さもあり、素晴らしいですよね。
これは設定の中で、190体以上作っています。設定をイチから作らざるを得なかったのですが、正直こんなに多くなるとは思わなかった(笑)。設定を作るということはカラーリングや身体に合わせたキャラクターの動かし方も含めて作るということですが、それをやっていきました。
「キャラクターを丁寧に動かさないとダメ」
――後半では、「成れ果て村」の秘密が明かされていきますが、監督にとってとくに思い入れの深い話数はありますか。
やはり、7話と8話でしょうか。描かれていることはショッキングですが、それ以上に時間の流れを意識しました。ガンジャ隊の過去の話での時間の流れ、変化を自然に見せたかったんです。その辺を、ちゃんとアニメーションとしてスムーズに見せることがことのほか、難しかったですね。あの7話と8話はヴエコの一人称の主観に近いかたちで描いているわけで、そのリズムを押さえておかないと、誰目線の話だろう?となってしまう危険性がありました。
――本当に衝撃のシーンの連続でしたが……気をつけたのはどんなことでしょうか。
7、8話ってアクションシーンがあるわけではないので、キャラクターを丁寧に動かさないとダメなお話なんです。観ている人がスムーズに入り込めるように、微妙な変化を大切にしないと、観ている人の気持ちが離れてしまうんですよね。それをアニメーターの皆さんにやっていただいたからこそ、ショッキングなシーンの衝撃が大きくなったんじゃないかと思います。そこは作業としては地味なんですが、すごく大事なところでしたね。
――とくに、ワズキャンの持っている包丁をヴエコが見て慄くシーンですが、観ているこちらも彼女同様にへたりこんでしまうような、凄絶なシーンでした…。
後編は明日公開です。ぜひ、お楽しみに!
【プロフィール】
小島正幸 コジマ マサユキ
1961年生まれ、山梨県出身。アニメ―ション演出家、監督。82年に演出デビュー。『あずきちゃん』でアニメーション初監督。これまでの主な監督作に『MASTERキートン』(98年)、『花田少年史』(02年)、『MONSTER』(04年)、『太陽の黙示録』(06年)、映画『ピアノの森』(07年)、映画『チベット犬物語 〜金色のドージェ〜』(12年)、『ブラック・ブレット』(14年)など。17年からの『メイドインアビス』シリーズでは、劇場版を含めた全作で監督を務めている。
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