声優・堀江瞬があらゆるジャンルの映画を独自の視点で語った書籍『ホリエル、シネマる。』の恋愛映画を語ったテキストを再編集。後半となる今回は、前編の『生きてるだけで、愛。』のお話の続きと『キャロル』への堀江さんの作品愛を感じてください!
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『エターナル・サンシャイン』(2004年)
『生きてるだけで、愛。』(2018年)
『キャロル』(2015年)
「恋」が「愛」に変わっていく時間を描いた映画だと感じた
Q.『生きてるだけで、愛。』はふたりがそれぞれ自身の仕事に対して抱えている葛藤も描かれていきます。
「だから、ヤスコのバイト先の人々の優しさも、彼女にとっては痛々しいんですよね。もちろん、とても優しい人々なのですが、ちょっとした行き違いで、その人々の本性が透けて見える瞬間もあるんです。同時に、ヤスコだけでなく、津奈木にも、どこか空っぽな部分があって。やはり彼らはみんな普通の仮面の被って生きているんだと思うし、ヤスコと津奈木は似た者同士なのかな、と感じます」
Q.お互いがお互いを現実に繋ぎ止めている感じもありますよね。とはいえ、どこかいつか終わってしまうような恋でもある。それだけにラストは象徴的でした。
「そうなんですよね。冬の訪れのうら寂しい感じもあいまって。結局、喧嘩したり、付き合うんじゃなかったと後悔していたふたりって、それもひっくるめて愛そのもので結ばれているんじゃないかなと。むしろ、何も思わなくなったら終わりだと思うし。愛って崇高に見えるかもしれないけど、依存しあうというものも含めて、どんな形でも愛になるんだよということをこの映画から教わった気がしました。なので、傷付けたり、傷付けられたりも含めて、恋から愛に想いの形が変わっていくお話として受け止めたところがあります」
恋するふたりが寄り添いあっている映画を無意識に選んだ
Q.ところで、『エターナル・サンシャイン』(前半参照)も『生きてるだけで、愛。』も『キャロル』も冬のお話ですね。
「そうですね。冬の寒々しさと恋愛という組み合わせの映画が無意識に好きなのかもしれません」
Q.(笑)。ところで3本目の『キャロル』はどのようにしてご覧になったでしょうか。
「レンタルで観たのですが、女性ふたりの写るソフトのパッケージに別の物語を想像していたんです。クリスマスに起こる奇蹟の物語みたいな(笑)。でも全然違うディープな内容でした」
Q.キャロル(ケイト・ブランシェット)は結婚もして、夫も子どももいる女性です。彼女がデパートで働くテレーズ(ルーニ・マーラ)と出会ったところからストーリーは動き出します。
「女性ふたりの心の成長を描いている映画ですよね。キャロルは、見た目もカッコよくて自立心の強い女性ですが、映画を観続けて感じるのは、ルーニ・マーラ演じるテレーズより、キャロルのほうが実は弱い人かもしれないということ。テレーズと行動をともにすることによって、キャロルのほうがより抑圧的なものから解放されているんじゃないかなと感じました」
Q.1950年代という舞台設定に加えて、ふたりの心の動きを丹念にカメラが追っていきますね。互いを見つめ合うシーンが何度かありますが、そのお芝居も際立って印象に残ります。
「そうですね。全編通して、そこまでセリフが多いわけではないからこそ、視線であるとか、ふたりの所作が際立っていくのかもしれません。だから、お互いがいろんな感情の交差の末に未来を切り開いていく姿が素敵です」
Q.ガラス越しや鏡越しに見つめ合うふたりの姿がすごく色っぽくて、視線で恋愛を表現している映画で、ラストもドキドキしてしまいますよね。さて、今回の3本を振り返ってみていかがですか。
「どんな形であれ、恋するふたりが寄り添いあっている映画を無意識に選んだのかもしれません。ふたりの心が寂しさを抱えて、右往左往している感じの映画だとも思いますね。観たあとに決して明るい気持ちにはならないし、ほんの少し憂鬱な気持ちにもなるのですが(笑)、そこに余韻感がある。ふたりの未来の関係性をそっと提示するような感じもあります。そこがあるから繰り返し映像を反芻したくなるし、何度も観たくなる。僕は、行間や余韻に想像をふくらませることができる映画が、やっぱり好きなんだと今回の3本で思いました」
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ISBN 978-4-575-31596-7
●堀江 瞬 Shun Horie
5月25日生まれ。大阪府出身。15年に声優デビュー。近年の主な出演作: 『ヴィジュアルプリズン』(ロビン・ラフィット)、『魔王イブロギアに身を捧げよ』(イブロギア)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(チウ)、『ドラゴン、家を買う。』(レティ)、など。19年にKiramuneレーベルにて、SparQlewのメンバーとしてCDデビュー。アーティストとしても活動中。