■「アートってもっと身近にあっていいもの」

 当時は美大を出て3~4年。親には「アートの活動がしたいから、就職せずにバイトする」と言っていました。でも実際は、お笑いの仕事をしていたわけです。そろそろアートも始めたいなと思っていた時期だったので、本当にありがたかった。しかも制作費は出るし、毎月毎月、好きなモノが作れる。すごくうれしかったですね。

 こうして、僕の粘土創作――「粘土道」がスタートしました。

 たとえば彫刻って街中にあふれていますが、普通の人だったら、たいていスルーしてしまいます。でも、「身近な物に粘土を盛る」というアートなら、気づいてもらえるんじゃないか。さらに言えば、もっと気軽にアートに触れて楽しめるようになれば……という思いもありました。

 以前、魚のカレイをモチーフにしたスマホケース『カレイPhone』を作ったことがあって、これがサイズ的にすごく大きかったんですね。すると、これを見た人は、みんな「不便でしょ?」って言う。でも、僕からすると「不便だから何なの?」と。

 以前の日本は、アートを楽しめる風潮が、そもそもあまりなかったように思います。実際、電車の中でコレを使っていると見て見ぬふりされた一方で、海外だとものすごく反応が良かったりもしたんですね。でもアートって、本来はもっと身近にあっていいものだと思うんですよ。

 僕の「粘土道」は20周年を迎えました。アイデアがあるときはいいですが、何も浮かばないときは、本当にどうしようって思います。

 でも、ギリギリまで考えてイマイチ面白くないなって感じたとしても、作っちゃえばこっちのもん。僕のやってるような、もともとある品物を台無しにして、粘土を盛る人なんて他にいませんから(笑)、多少アイデアが甘くても、造形すれば様になる。昔は「このアイデアで世の中を変えてやろう!」と気張っていましたけど、数を作っていくうちに「ちょっと歪んじゃったけど、まぁこれも味」って思えるようになってきましたね。

 昔は、美大の同級生たちがアーティストとして成功していくのを見て、妬ましい気持ちもありました。僕は、芸能活動の延長上でアートをやっていたので、すごくコンプレックスがあったんですね。「どうやっても本物にはなれないんじゃないか」と。

 でも「継続は力なり」なんですね。長くやっているうちに、こういう仕事をしている自分だからこそ作れるものがあったり、出会える人がいたりすることに、気がつきました。

 つまり、「粘土道」って、僕にとって自分探しの道でもあったんですね。

<プロフィール>
片桐仁/かたぎり・じん 
1973年、埼玉県生まれ。多摩美術大学時代に小林賢太郎とコントグループ「ラーメンズ」を結成。近年では俳優としても活動する一方、アーティストとして粘土での造形作品を発表。2015年から4年間開催された不条理アート粘土作品展『ギリ展』では、累計約8万人を動員した。4月24日からは舞台『家族のはなしPART1』に出演。

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