『魔術士オーフェンはぐれ旅』「原作重視」の世界観の意図を浜名孝行監督&脚本・吉田玲子が語るの画像
『魔術士オーフェンはぐれ旅』本ポスターより (C)秋田禎信・草河遊也・TO ブックス/魔術士オーフェンはぐれ旅製作委員会
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 生誕25周年の今年、完全新作アニメで復活した秋田禎信によるファンタジー小説『魔術士オーフェンはぐれ旅』(BSフジほかにて放送中)。監督は代表作に『テニスの王子様』を持つ浜名孝行氏が担当し、シリーズ構成は『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』をはじめ、数々のヒット作に携わる脚本家の吉田玲子氏が務める強力タッグになる。

 1994年に原作第1巻が刊行されて以来、今なおコミカライズが続く名作『魔術士オーフェン』。令和の時代に再び同作を送り出したその思いを、浜名孝行氏、吉田玲子氏の2人に語ってもらった。

■原作重視。キャラクターの心情描写を一番のキモに

『魔術士オーフェンはぐれ旅』より、オーフェン

『魔術士オーフェンはぐれ旅』は、魔術士養成機関《牙の塔》出身で、かつてはエリート魔術士として名を馳せた青年オーフェンの旅を描いた物語。

 禁術の失敗で異形の姿になってしまった義姉の魔術士アザリーを救うために《牙の塔》を出奔したオーフェンだが、《牙の塔》からは魔術の師チャイルドマンが、生徒たちを引き連れアザリー討伐に出発していた。それぞれの思いが交錯するゆく末で、オーフェン、チャイルドマンはアザリーと対峙するのだが……。

 ライトノベルというジャンルが確立され、ファンタジー小説が爆発的な人気を博した1990年代後半。同作も大ヒットを記録し、中学生、高校生だった当時、夢中になって読みふけったという方も多いだろう。1998年に一度アニメ化された本作だが、オリジナルエピソードを加えたそれとは異なり、浜名が制作のテーマに挙げたのは“原作重視”だった。

浜名「アニメとしてどう見せるかを考えるのと同時に、作風、物語自体は原作重視でいくのが一番の取り組みでした。過去のリメイクではなく、完全新作でありながら“そのままの『オーフェン』”を送ることで、昔のファンも、今見てくれるファンも喜んでくれる作品になると思ったんです」

 特に求めたものは“キャラクターの心情”。「ファンタジー世界の描写、魔法のアクションなどは当然格好よく見せるとして、アザリーを追うオーフェンの心情を中心に、チャイルドマン教室でのかつての仲間、今のオーフェンと旅を共にするクリーオウ、マジクたちの心の部分をていねいに。僕の中ではこれが一番のキモでした」と、浜名はその意図を明かす。

 監督の構想をまず形作るのは、シリーズ構成という骨組みだ。そこで、浜名は吉田に白羽の矢を立てた。吉田とは『獣の奏者 エリン』(2009年、NHK教育)でタッグを組んでおり、その際もキャラクター描写の面で非常に助けられたという。

 浜名のオーダーを受けた吉田は改めて原作を読み返し、「オーフェンのアザリーへの思い入れをしっかり伝えなければ、なぜそこまでして彼女を追うのかが理解されにくいだろう」と考えたという。

『魔術士オーフェンはぐれ旅』より、アザリー

吉田「かつてのアザリーとの関係であったり、かつてのチャイルドマン教室での思い出であったり、オーフェンの苦悩はすべて過去からきているんですよね。そういう彼を取り巻く人間関係の伝え方は分かりやすくなるように注意しました」

 異形の姿になってしまったアザリーを救う。それがオーフェンの誓いである。

吉田「その動機となる部分は『プレ編』の中に描かれていて、そういう意味で、2人のつながり、チャイルドマンとの関係を明かす『プレ編』のエピソードを途中途中に挿し込むことにしました。チャイルドマンはその正体の関係上、本編序盤ではミステリアスすぎるんですよね。チャイルドマン教室の生徒たちはもちろん、オーフェン、アザリーにしても、彼の意志によって動いていく部分も大きいので、チャイルドマンが本当は何を考えていたのか。そういうところも『プレ編』を挟んでいくことでしっかり押さえられたと思います」

『プレ編』または『プレオーフェン』と呼ばれるのは、オーフェン、アザリーが魔術を学んだ《牙の塔》時代の物語。『はぐれ旅』の前日譚にあたり、キャラクターの心情を描き出すということは、このエピソードをどう挿入していくかにつながっていった。

吉田「オーフェンは一見明るく見えますけど、本質は過去に捉われた、閉塞感のあるキャラクターなんです。オーフェンが過去の自分と向き合うことで、ようやく前に進んでいくことができる。浜名監督がおっしゃる“心情”という部分は、時代が変わっても共感して見ていただける部分だとも思います」

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