■第2位:レックス・ルーサー(DCコミックス) 主な敵:スーパーマン

 レックス・ルーサーは『アクション・コミックス』23号(1940年)で、天才科学者という触れ込みで初登場した。このときはなぜか赤い巻毛の中年男だったが、いつの間にやらツルツルの坊主頭になっていった。78年の映画では、「ヅラだった」という解釈になっている。

 さて、初期のレックス・ルーサーは、自分が創造したロボットを操って銀行強盗を働き、それをスーパーマンに見つかって懲らしめられる……というのが主な活動だった。警察に突き出されて逮捕されるものの、トンチを利かせて脱獄し、再びロボットを製造して銀行強盗を働き、スーパーマンに見つかって……というのが、ほとんどルーティーンになっていた。当時のコミックス製作者たちは、そういうのが「悪」だと思っていたのである。

 そんなレックス・ルーサーのキャリアに転機が訪れるのは、1980年代。それまでシャバとムショを行ったり来たりする「悪の天才科学者」という設定が一新され、金儲けのためならえげつない手段を取るのも厭わない「悪の複合企業経営者」になったのである。つまり、初登場から40年の間に、コミックス読者の「悪」に対する認識が代わり、「しょぼい罪を犯すチンピラよりも、大企業の社長のほうがよっぽど悪党だ」と思うようになったのだ。

 以降、レックス・ルーサーは「庶民が考える巨悪」の権化の道をひた走り、世紀の変わり目にはなんと大統領選に出馬。2000年の選挙では見事、アメリカ合衆国の大統領に選ばれている(後に悪事がバレて失脚、逮捕)。かつてスーパーマンは、ジョン・F・ケネディ大統領に呼ばれてホワイトハウスに赴き、「アメリカ人の健康のために一肌脱いでくれ」と頼まれて、健康増進キャンペーンに協力したりしていたのだが……。洋の東西を問わず、政治不信はますますひどくなっているのかもしれない。

●主な登場映画

『スーパーマン』(1978年、演:ジーン・ハックマン)
『スーパーマン リターンズ』(2006年、演:ケヴィン・スペイシー)
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年、 演:ジェシー・アイゼンバーグ)

■第1位:J・ジョナ・ジェイムソン(マーベル・コミックス) 主な敵:スパイダーマン

「ふたまん+編集部が選んだ栄えある第一位は、J・ジョナ・ジェイムソン!」

 と言われても、ピンとこない向きも多いだろう。J・ジョナ・ジェイムソン(以下JJJ)」は、ピーター・パーカーことスパイダーマンが正体を隠し、自撮り写真を売り込みに行った新聞社の編集主幹である。頑固で高圧的でドケチだが、基本的には犯罪者ではない。むしろ、正義のために公権力と戦うこともあるくらいで、社会からは尊敬されるような立場にある人物だ。

 そんなJJJが、なぜ「ワースト1の敵役」なのか。

 それは、彼がとことんスパイダーマンを憎み、自分の『デイリー・ビューグル』紙において、スーパーヒーローにネガティブ・キャンペーンを張っているからである。

 あなたがスーパーヒーローだとして、想像してみていただきたい。火事で燃え盛るビルの中に飛び込み、逃げ遅れた幼い子どもを救出しても、翌日の新聞には「スパイダーマンは社会への脅威だ」という文字が踊っているのである。愛する人々を守るために、あえて身分を隠して活動したら、「顔を隠すのはやましいことがあるからだ」と言われたりするのだ。JJJの鋭い舌鋒は他のスーパーヒーローたちにも及び、強大な敵から地球を守った後にも「あの騒ぎはヒーローたちが仕組んだ狂言だった」と報道したりする。

 おそらくJJJがいなければ、マーベルコミックスのヒーローたちは、もっと楽に生きられたに違いない。

 いいことをしたら、褒めてもらえる……と思っているコミックス好きのチビッ子たちに冷水をぶっかけ、「世の中はそんな甘いものではない」と厳しい現実を教えてくれるのが、このJJJなのであった。

 ●主な登場映画

『スパイダーマン』(2002年、演;J・K・シモンズ)ほか
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)

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 以上、『ふたまん+』が選んだワースト5。あなたが選ぶとしたら誰を入れる?(文・中井仲蔵)

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