■『ハルヒ』を通じて、仲間が増えた
ここで、2006年の『ハルヒ』ブーム、そしてダンスオフをリアルタイムで経験した生き証人に登場してもらおう。自主運営アイドル「ラストクエスチョン」のメンバー、御坂しのぐさんだ。
小学校の頃からお小遣いで「アニメイト」に通ってグッズを買っていたという御坂さんだが、「アニメイトですらコソコソ通っていました。当時の大人たちはコミケやオフ会を楽しんでいたでしょうけど、私たち若い世代は“オタクバレ”するのが怖かったんです。自己満足で使っていたアニメ絵の入ったペンを、“こいつ、オタクじゃん”と言われて壊されたこともありました。世間では、なぜか『ONE PIECE』や『名探偵コナン』はオタク扱いされないんですよね」と、00年代当時の心境を語る。
だが、御坂さんには、かけがえのない体験があった。「病気で学校に行けなかったとき、『ハルヒ』と出会えたんです。世間のアニメへのイメージが変わるかも、と希望を持てました」。
2006年の放送中の5月、『ハレ晴レユカイ』をオリコン・チャートで1位にするためのファン活動、“CD購入オフ”が行なわれ、ファンが大挙してCDショップへ詰めかけた。結果、チャートでは5位に留まったものの、御坂さんによると「オリコンにランクインしてくれたおかげで街頭やテレビで曲が流れ、アニメを知らない層にも『ハレ晴レユカイ』が広まってくれました。『ハルヒ』を見てないのにカラオケで歌う人が出てくるぐらい」。インターネットを介したファンの出会いとオフ会によって、『ハルヒ』はオタクの実社会を変容させていったのだ。
やがて、御坂さんは市販コスチュームを借りて『ハルヒ』のコスプレを体験し、ついにニコ動で『ハレ晴レユカイ』のダンス動画を知って、衝撃を受ける。秋葉原のダンスオフに飛び入り参加したが、コスプレ趣味もダンスオフも学校の友達には内緒だったという。
「『ハルヒ』までは内にこもって活動していた人たちが『ハルヒ』を通じて、ちょっとだけ表舞台に出られたんです。やっと仲間が増えたことによる解放感が凄かったです」(御坂さん)。
御坂さんは「消費する」「ネットで仲間と出会う」そして「町で顔を会わせる」という00年代的なオタクのライフスタイルを生身で体験してきた。オタクであることは、いつの時代も「自分自身を社会に解放する」ための通過儀礼なのかも知れない。
※本記事は『EX大衆』19年12月号の企画を再構成したものです。
PROFILE みさかしのぐ。ラストクエスチョンには17年10月22日に加入。ラスクエ初の全国流通盤『777』を引っさげた東阪ツアー、その東京公演が11月23日(土)に青山の月見ル君想フで開催された。