「偏見で拒否するのではなく、知って相互理解をしよう」

――さて、作品についてもお伺いしたいんですが、今回原稿が展示された『弟の夫』が世界で読まれていることに関しては、どのような思いでいらっしゃいますか?

数々の賞を受賞し、ドラマ化もされた『弟の夫』

(『弟の夫』とは:小学生の娘と父子2人で暮らす主人公と、彼の双子の弟の結婚相手であったカナダ人男性・マイクとの交流を描いた作品。第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞、第47回日本漫画家協会賞 優秀賞、第30回アイズナー賞 最優秀アジア作品賞などを受賞)

「広く読んでいただきたいと思っていたので、世界で読んでいただいているのはありがたいことですね。

 この作品は当初、すごくドメスティックな作品だと思っていました。日本の保守的な環境に、異物として同性愛者が入って来ることで価値観が変わっていく、という構図なので、作品を始めるときに海外のファンから『今度の作品は私たちも楽しめそうですか?』と聞かれ、『うーん、どうなんだろう……』って思っていたんです。

 ところがいざフランス語版や英語版が出て反応を見てみると、“実はどの国にも同じような状況がある”とういうことが分かったんです。

 例えばすでに同性婚が合法化されている国だとしても、同性愛に対するスティグマ(ネガティブなレッテル)が全部なくなっているかといえば決してそういうことではなくて、やはり偏見や誤解がある。欧米はもっとフラットになっているのかと思っていたんですが、想像以上にまだバイアスがかかっているということが分かりました。

 もしかすると、『弟の夫』で描いていた“偏見で拒否するのではなく、知って相互理解をしよう”というテーマは、同性愛に限らず人種や宗教で対立することの多い欧米だからこそ響く部分があったのかもしれません」

――住居や食事、温泉など、日本的な文化が多く登場するマンガでもありますが、そういった部分についての反応はどうだったんでしょうか?

「確かにエキゾチックな部分で楽しまれた方もいらっしゃったかもしれませんね。あるアメリカのインタビュアーは『温泉に行く回は非常に“マジカル”だった』とおっしゃっていました。ただあの回は、内容的にも“登場人物たちが家族として結ばれていく”というものだったので、単にエキゾチックな描写にだけではなく、ストーリーに関しても万国共通で響いてくれたんだなって思います」

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