――狐火さんの『両目のダルマ』って曲に、「見上げた神棚の端にあるダルマに書かれていた日付が 俺の生まれた日だったときに成功は約束された」というリリックがありますよね。自分を信じる力がある人なんだと思いました。
狐火 ラップだけは唯一自信が持てるもので。「これがダメだったら自分はもうダメだ」という背水の陣の気持ちで、ライブには常に臨んでいます。
吉田 そういう人の音楽が好きだし、僕は「やめない人」にひかれるんです。何を言われようが、嫌われようが今のままの活動を続けるんだろうな……という人ですね。だから野狐禅(竹原ピストルが在籍していたユニット)が解散したときすごくショックで、「サンボマスターみたいに何枚も同じようなアルバム出し続けろよ!」って思いました(笑)。
狐火 続けることは大事かもしれないですね。僕はラップをはじめて16年ぐらいたつんですけど、「昔はダサいと思ったけど、5年経って聞いたら良さが分かった」って人もいたりして。続けていれば見る人は見てくれているし、誰も聞いてくれなくても、『○歳のリアル』のシリーズは続けていきたいと思ってます。
吉田 あと狐火さんのブログで、最初は韻を踏んでラップをしていたけど、それを途中でやめたって話がありますよね。あの話、いいなと思って。
狐火 韻を踏まないと先輩たちに怒られたんですよ。でも、その先輩たちがラップをやめていって、自分の韻も通用しないと分かったし、「もう自分のやりたいことを試そう」と思って。
吉田 僕もマンガを持ち込みして、編集者にゴチャゴチャ言われて、その要望に合わせて描いたりもしてきましたよ。それで売れなかったのに、僕のマンガがちょっとTwitterで話題になったら仕事の話が来たりして。「おまえらが言っていたことは何だったんだ!」と。あと僕は狐火さんの『クズ』って曲の「オードリー若林さんが推してくれたって浮かれて小躍り? バカバカしいね」って歌詞が響いたんです。今はマンガ家たちも、作品を出すと「誰か有名人、褒めてくれ!」って思っているわけですよ。それなのに狐火さんは褒められて浮かれている自分を戒めてて。
狐火 有名人の方が褒めてくれて話題になるのって一瞬で、すぐ現実に引き戻されるんですよね。僕は万人受けから程遠い音楽をやっているので、有名人に推されて違う景色を見れたような気分になっちゃうのが怖くて。それよりは今と同じモチベーションで続けていくのが大事なのかなと思っています。
――吉田さんは先ほどの編集者への恨みや怒りみたいなものが、創作の一つの原動力になっているんですか?
吉田 このあいだ女性の漫画家さんに「あなたのマンガはときどき女性への恨みが強すぎて読めない」と言われましたね。それ、ちょっと正しいかもしれなくて。そう見えないように描いているつもりなんですけど。
狐火 なるほど……。
吉田 逆に崇拝もあるんですよ。『やれたかも委員会』って、基本的に男が語る過去だから、女の子は全員かわいい。逆に言うと、過去の女の子しかかわいくないのかもしれない。だから恨みとか、それでも女の子と過ごして楽しいと思っていた自分とか、昔の自分の恥ずかしさとか、いろんなものが混じっているんです。
――狐火さんの中では『27才のリアル』で書いた怒りは今も消えてないですか?
狐火 今もライブで歌っているので、その気持ちは残っていると思います。今も僕は派遣で働いていて、いつ職がなくなるか分からない。そういった意味ではたぶん一生つきまとう気持ちがあの曲にはあるのかなと思います。
『27才のリアル』狐火
『両目のダルマ』狐火 Track by SHIBAO