吾峠呼世晴氏による『鬼滅の刃』(集英社)には、人間を食らうことで生きる「鬼」が登場する。鬼は太陽光を浴びるか、特殊な刀「日輪刀」で頸を斬らない限り滅することはなく、中には「血鬼術」と呼ばれる異能の術を使う者も存在する。
この血鬼術の種類は多岐にわたるが、鬼殺隊士を苦しめた、まさに“初見殺し”ともいえる強力な術も少なくない。たとえば、昨年公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』で本格的に姿を現した上弦の弐・童磨の「蓮葉氷」は、自らの血を凍らせて霧状に散布する血鬼術だ。この霧を少しでも吸いこむと人間の肺胞はやがて壊死してしまうため、蟲柱・胡蝶しのぶでさえも苦しめられることになった。
そこで今回は、童磨の術のように予測不可能であり、初見時はまず対処不可能な血鬼術を繰り出した鬼たちを厳選して紹介しよう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■斬れば斬るほど分裂して強くなる…上弦の肆・半天狗
「刀鍛冶の里編」で登場したのは、上弦の肆・半天狗だ。里にいつの間にか侵入していた半天狗は、霞柱・時透無一郎ですら目視するまで鬼と気づくことはできなかった。
半天狗は一見すると臆病そうな老人の姿をしているが、その異様な雰囲気から「上弦の鬼」であると判断した無一郎と主人公・竈門炭治郎。2人は即座に戦闘態勢をとり、無一郎は瞬く間に半天狗の頸を斬り落とす。
しかし、この一撃が半天狗の真の能力を発動させる引き金となる。斬り落とされた頸から胴体が生え、逆に残された胴体からは頭が生えて再生。さらに不死川玄弥の攻撃によって、最終的に4体に分裂した。
この分裂体はそれぞれ、「積怒(せきど)」「可楽(からく)」「空喜(うろぎ)」「哀絶(あいぜつ)」という喜怒哀楽の名を持つ別々の鬼となり、電撃を操ったり、空を飛んで音波攻撃を放ったりと、多種多様かつ強力な攻撃で炭治郎たちを苦しめたのである。
鬼を倒すための条件である「頸を斬る」という行為そのものが、半天狗を分裂させ、強化する血鬼術のトリガーとなっていたのだ。彼は窮地に追い込まれるたびに、自分を守るための分裂体を生み出し、窮地を脱してきた鬼であった。
斬れば斬るほど若返り、強くなっていく半天狗の血鬼術。鬼殺隊士にとっては、「頸を斬る」ことは当然の行動だ。その常識を逆手に取るこの能力は、まさに“初見殺し”の能力といえる。
■強制昏倒され精神世界で攻撃…下弦の壱・魘夢
劇場版にもなった「無限列車編」で登場する下弦の壱・魘夢もまた、“初見殺し”と言える血鬼術を使用する鬼である。
短期間で大勢の人間が行方不明になった無限列車に、調査のため乗り込んだ炎柱・煉獄杏寿郎と炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助。しかし彼らは、乗車直後に魘夢の協力者である車掌に切符を切られたことで、一瞬にして術中に引きずり込まれてしまう。
魘夢の血鬼術「強制昏倒催眠の囁き」は、強制的に相手を眠らせて夢の世界に閉じ込める能力だ。車掌が切った切符には自身の血で細工が施してあり、切符を切ることで遠隔で術が発動されるようになっていた。
そして、列車には車掌のほかにも魘夢の協力者である人間たちがいた。病や貧困に苦しむ彼らは「幸せな夢」を見せてもらうことを条件に魘夢に協力。眠らされた炭治郎たちの精神世界に侵入し、無意識領域にある“精神の核”を探し出して破壊するよう命じられていた。
人間の弱みにつけ込んで協力させ、鬼殺隊を内側から攻撃した魘夢。かねてより、幸せな夢を見せた後に悪夢を見せ、人間が絶望する様子を見るのを好んでいた彼らしい卑劣な作戦だった。
“精神の核”を破壊された人間は、たとえ強靱な肉体を持っていても廃人と化してしまう。柱である煉獄ですら細工された切符に気づけずに術中にハマってしまったことからも、この“初見殺し”の血鬼術がいかに強力だったかが分かるだろう。
炭治郎は自力で抜け出す方法を見出したが、煉獄と善逸、伊之助の3人は、竈門禰󠄀豆子が術の媒体である切符を燃やしていなければ目覚めることすらできなかったかもしれない。
煉獄のように無意識に体を動かして危険に対応できる強者もいるが、並の隊士であればこの血鬼術にかかってしまった時点で勝負はついていただろう。


