『キングダム』(原泰久氏)の主人公・信は、天下の大将軍を目指して数々の激戦を乗り越えてきた。そんな彼の成長を語るうえで欠かせないのが、ともに死線をくぐり抜けてきた飛信隊の仲間たちの存在だ。
飛信隊は戦いを重ねるごとに規模を拡大してきたが、その一方で、激戦のなか命を落とした隊員も少なくない。信の命を救った者、後輩を守るために自らの命をかけた者、そしてかつての仲間たちと運命をともにした者——。
今回は、そんな飛信隊の隊員たちのなかから、信の成長に大きな影響を与えた3人の仲間たちの軌跡を振り返りたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■信の命を救い、夢を託した最古参・尾到
尾到(びとう)は信と同じ城戸村出身で、尾平の弟である。彼は幼い頃から信の人となりを知る幼なじみだ。王都奪還後の「蛇甘平原の戦い」では、尾平や羌瘣らとともに澤圭の伍に加わり、信の初陣をともに戦った、飛信隊の最古参の一人である。
続く「馬陽の戦い」では、百人将となった信の部隊に第十三伍長として参加。王騎将軍から「飛信隊」の名を授かり、信が着実に大将軍への道を一歩ずつ上っていく姿は、幼なじみの尾到にとっても喜ばしいものだったに違いない。だが、そんな彼らの前に、趙の猛将・龐煖が立ちはだかる。
龐煖による夜襲で、飛信隊は壊滅的な打撃を受け、信も深手を負って意識を失ってしまう。さらに、秦に恨みを持つ万極の軍勢が、弱った飛信隊に容赦なく追撃を仕掛けてきた。
「信さえ生きていれば飛信隊は死なない」。そう信じて、飛信隊全員で必死に抵抗するなか、意識のない信を背負って逃げる役目を担ったのが尾到である。夜の山中を駆け抜け、執拗な追っ手を振り切ろうとする尾到。そして、ようやく危機を脱したとき、尾到はすでに致命傷を負っていた。
「大勢の仲間の思いを乗せて天下の大将軍にかけ上がるんだ」と言い残し、尾到は眠るように息を引き取る。彼が文字通り命がけでつないだ信の命と夢。その尊い犠牲があったからこそ、現在の信と飛信隊の活躍があるのだ。
■飛信隊を支え続けた頼れる兄貴分・松左
信が率いる飛信隊を長年にわたって支えてきたのが松左(しょうさ)だ。槍の腕は一流で、飄々とした態度のなかに面倒見の良さがにじむ、頼れる兄貴分的な存在。戦場では頼もしい古参隊員として、ふだんは若い隊員たちが気負わずに頼れる存在として、常に隊の精神的支柱であり続けた。
そんな松左の人柄がうかがえるのが、飛信隊が三百人隊となった頃のエピソードだ。
思うように武功を挙げられず焦りを募らせる信に対し、松左は「お前は肩の力を抜いてだな── ちゃんと今を皆と楽しめ それも隊を強くするための秘訣だ」と助言する。信は「それもそうだな」と応じ、張り詰めた表情がふっと緩んだのが非常に印象的だった。
やがて飛信隊が規模を拡大すると、松左は百人将兼副歩兵長として新兵の育成も担うようになる。そんな彼が「朱海平原の戦い」で窮地に陥った、干斗たち経験の浅い新兵を見捨てるはずもなかった。敵の猛攻にさらされた若者たちを救うため、松左は危険を顧みず敵陣に飛び込む。だが、その戦いのなかで彼は致命傷を負ってしまう。
松左の危篤を知らされた信は、馬を走らせて駆けつけた。最後は疾走する馬から飛び降りるように松左のもとへ向かった姿から、信がいかに彼を大切に思っていたかが伝わってくる。
最期に、愛用の槍を干斗へと託した松左。その槍とともに松左の思いを受け継いだ干斗が、今後どのような成長を遂げるのか、その活躍も注目していきたい。


