■発売後1年だから語ることができる、ゲームの原点
宇内:さて、あらためてお伺いしたいのですが、新しく『サイレントヒル f』を立ち上げるにあたって、プロデューサーとしてどんなゲームにしたいとお考えになっていたのでしょうか。
岡本:発売からもうすぐ1年というタイミングですから、テーマ的なところでお答えすると、竜騎士07さんは「結婚」というテーマを明確にお持ちになっていました。「結婚」はハレのものという印象がありますが、竜騎士07さんはそれをあえて不吉なものとして捉えていくと。ハレなものをホラーの題材にするというところが、逆転の発想で素晴らしいなと思いました。
宇内:最初の発端となったアイデアが「結婚」。その次に決めたことはどんなことだったのでしょうか。
岡本:主人公ですね。結婚を受け入れるのか、受け入れないのか苦悩するというドラマから、雛子の性格が決まっていきました。物語の年代は1960年代なんですが、雛子は昭和の時代に、令和の感性を持った女の子なんです。男性に対するイメージや、男女の恋愛観には令和の感覚を持っている。彼女はそこに周囲とのギャップを感じながら生きているんです。
宇内:現代ではなく、あえて昭和にすることで、雛子のギャップを描いたんですね。
岡本:そうですね。当初は竜騎士07さんも、時代設定を戦前、戦後、60年代、80年代と、どこに置くか、いろいろと悩まれていたんですが、KONAMI側から「1960年代はいかがですか?」と提案したんです。60年代の日本では、お見合い婚が根強く残っていた一方、世界では女性解放運動が起きていた。近代と現代の境目のような時代に焦点を当てることで、テーマがより深く描けるんじゃないですか、と提案したんです。
宇内:舞台となる「戎ヶ丘」はそのあとに決まったんですか? 「戎ヶ丘」のモデルは岐阜県下呂市金山町の「筋骨(きんこつ)エリア」だそうですが。
岡本:舞台は、時代とほぼ同時期に決まりましたね。竜騎士07さんが『ひぐらしのなく頃に』のイベントの帰り道にたまたま金山町に立ち寄られて、そのときにすごく印象に残っていたんだそうです。竜騎士07さんとしては、他のインタビューでも語られていますが、静岡を舞台に考えていたこともあったそうで。
宇内:「サイレントヒル」といえば「静岡(静かな丘=岡)」ですからね。
岡本:でも、静岡だと霊峰・富士の印象が強すぎるから、町の印象が薄くなってしまうことを悩まれていたんですね。それで結局、金山町をモデルにすることになったんです。竜騎士07さんの作品の雰囲気にも合うので、それはそれで良いなと。KONAMI側も金山町をモデルにすることに賛成しました。
宇内:実は先日、私も金山町に行ってきたんです。「筋骨エリア」を回ってきました。
岡本:嬉しいですね。宇内さん、すごいです。東京からだと、けっこう遠い場所ですよね?
宇内:名古屋から電車を乗り継いで行きました。景色がすごくキレイでしたね。『サイレントヒル f』をプレイしてから現地に行くと、「あっ、ここは!」というポイントがいくつかありました。たとえば、水場。ゲーム中だと雛子が水場を自由に走り回れるじゃないですか。でも実際に行ってみると、水場はお皿や洋服を洗う場所で、生活水として使っている。だから「雛子が走り回っちゃダメじゃん!」と思ったりして(笑)。すごく面白かったですね。
岡本:ホラー作品なので、町のイメージを暗いものにしてしまう可能性もあります。なので、観光協会(金山町観光協会)に許諾をいただいたんですが、金山町のみなさんは、竜騎士07さんの作品ということで、わりとすんなりと受け入れてくださって。良いイメージを持っていただいたようで、とてもありがたかったですね。
宇内:歴史的にも金山町は興味深い場所なんですよね。宿場町だった頃に遊郭もあったそうで。建物が半地下になっていて、地面に近いところに小さな窓がついている。そこから遊女が手を出して、お客さんを誘っていた……ということがあったようです。「筋骨エリア」はそれほど大きい場所でもないので、竜騎士07さんはこんな場所をよく見つけたなと驚いてしまいました。
岡本:我々も開発を進めているときに現地に伺って、いろいろな場所を撮影させていただいたんです。そのうえでゲームに合わせて、いろいろとアレンジをしていきました。たとえば、これまでの「サイレントヒル」シリーズでは道路が陥没していたり、橋が落ちていたりするので、モデルの町並みや建物を変えていくことで、「戎ヶ丘」を作っていったんです。
宇内:プレイヤーとして現地に実際に足を運んでみると、本当に「戎ヶ丘」があるんだなと感じられました。とても楽しい経験でしたね。
【第2回につづく】
©Konami Digital Entertainment
【プロフィール】
宇内梨沙(うないりさ)
ポップカルチャーを心から愛する元アナウンサー。2015年、TBSテレビに入社。アナウンサーとして多数の番組を担当する一方、ラジオやYouTubeなどでゲーム偏愛を披露。2025年にTBSを退社し、現在は『Twitch』でゲーム配信者として活動中。


