■「標的は陽気な悪魔」暴落確実の紙幣による支払いを承諾

 激しいインフレーションで紙幣の価値が暴落したことで知られるジンバブエを舞台にした「標的は陽気な悪魔」も、ゴルゴが金額よりも大切にしているものが見て取れるエピソードだ。

 このエピソードでゴルゴが依頼されたターゲットは、ジンバブエ準備銀行総裁だ。「100億ジンバブエドル札」が刷られるほど異常なインフレを利用して私腹を肥やす総裁を暗殺し、ジンバブエの経済を立て直したいと依頼人のルロイ・ボネットは訴えた。そんな彼がゴルゴに提示したのは、なんと「ジンバブエドル紙幣による支払い」だった。

 貧しい農民たちのカンパによって用意された依頼料の総額は、1300京ジンバブエドル。すさまじい額に思えるが、依頼時点の米ドルでの価値は100万ドル程度だ。しかもゴルゴが依頼を達成し、実際に両替する時には、さらに紙幣の価値が下がっていることが明白だった。

 当のボネットですら「断られてもしかたがない」と語ったほどむちゃな依頼を、ゴルゴは「受け取り後の価値の下落は、俺の側の問題だ」と言い、眉ひとつ動かさずに承諾したのである。

 結果としてゴルゴはミッションを遂行し、約束通り1300京ジンバブエドルを受け取る。そして、いざ換金した時の金額は、わずか10万米ドルにまで暴落していた。

 通貨が違うとはいえ、1300京が10万まで下落するインフレの恐ろしさ……。それでも契約通りに依頼をこなした、ゴルゴのプロ意識が光るエピソードだ。

 

 こうしてゴルゴが破格の安値で仕事を引き受けたエピソードを見てみると、いずれも依頼人が真摯な態度だったことが共通点として浮かび上がってくる。

 先に紹介した「標的は陽気な悪魔」の中で、ゴルゴは「今、100万米ドル相当が、ジンバブエドルで用意され、お前の依頼に嘘がないなら、俺が引き受けない理由はない……」と語った。このセリフから、依頼人が信頼のおける人物かどうか——それこそが彼が依頼を受ける最重要なファクターであることを示しているように感じた。

 目先の金額ではなく、依頼人の人間性や、その依頼の裏にある真実を見極めて仕事をする。その揺るぎない哲学を貫き続けるからこそ、ゴルゴは伝説のスナイパーなのだろう。

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