『VIVANT』前代未聞の一人三役・堺雅人に「うまさ」より「恐怖」を感じてしまうワケ【かんそうの週刊ドラマレビュー】の画像
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 人気ブロガーのかんそうさんが毎週1回『ふたまん+』にてお送りする、ドラマへの熱い“感想”。今回のテーマは、話題沸騰のドラマ『VIVANT』(TBS系)。ドラマ通のかんそうさんをも驚かせた「俳優・堺雅人」の怪演について、徹底的に語ります!

 

 『VIVANT』シーズン2(TBS系)で、前代未聞の一人三役を演じている堺雅人が凄い。

 やってることは商社マンであり、別班工作員であり、別人格Fであり、瓜二つの中国の特務機関「シンシー」に所属する劉銘軒(リュウ・ミンシュエン)まで一人で抱え込む。普通の俳優なら役が壊れてもおかしくないのにそれを成立させてしまうヤバさ。マジで一人三役の頂点。ワケが分からない。

 人間の顔は基本的に1枚だ。免許証にも1枚、マイナンバーカードにも1枚、証明写真にも1枚。なのに堺雅人だけ、同じ顔面を3回使い回して、全部「本物」として通してしまう。

 ほとんど姿を変えないのに別人になる。例えば、乃木からFに切り替わる瞬間、声が低くなって歩き方が変わるだけで鳥肌が立つ。低くて冷たくかすれたトーンが気弱さを一瞬で消す。普通の役者なら感情を込めて「俺はFだ」などと宣言するようなところを、堺雅人は淡々と、むしろ日常会話の延長のように放つ。

 その軽さが逆に重い。同じ顔の中に別の人間が住んでいる本質を叩きつけてくる。Fの「よお」を聞くたびに震え上がりそうになる。低くて柔らかいのに刺さる声が、画面から染み出してくるたびに、どんな秘密も話してしまいそうになる。ガタガタと震えて「家族だけは勘弁してください」と言いながら、なにもかも吐いてしまうだろう。

 そして、突然のリュウ・ミンシュエン。誰なんだお前は。第16話、野崎(阿部寛)の前にふらっと現れて、乃木と同じ顔で普通に登場する。緊張感ゼロに見えて殺意全開、クレヨンしんちゃんの敵キャラクターのような雰囲気すら漂っている。

「私に嘘はつかないで~~~~~~~~~!!!!!」
と平手打ちする瞬間の絶叫、もはや意味がわからない。頭おかしい。同じ顔なのに完全に別人。嫉妬でぐちゃぐちゃになった愛をそのまま顔面に貼り付けてくる。甘くて湿っていて、怒っているのか甘えているのか区別がつかない。

 阿部寛が相手だと余計にヤバい。野崎が少しでも言い訳しようとすると、その顔で「愛してしまったんですねぇ」と寄ってくる。見ていて俺のリビングに第四の堺雅人が増えた気がした。

 一人三役の恐ろしいところは、切り替わるたびに「演技してます」が一切見えないことだ。三人が同じ骨格の中で別々に呼吸している。メイクも髪型も大差ないのに、肩の角度とまばたきの速さだけで人格が入れ替わる。視聴者の脳みそが「同じ人だろ」と抵抗しても、身体が先に「別人だ」と降参する。これが一番怖い。

 しかも三役とも、ちゃんと物語の中で必要な人間として立っている。サプライズのためだけの一人三役じゃない。乃木が乃木である理由、FがFである理由、リュウがリュウである理由が、全部その顔の上に乗っている。だから見ていて気持ち悪いほど気持ちいい。役が壊れるどころか、役が三人分、同じ体に住み着いている。

 しかも、乃木に関しては商社マンの顔と別班の顔も使い分ける。もはや一人四役。堺雅人が一番ヤバいのは、どれも「うまい演技」に見えないことだ。うまい演技はまだ許せる。うまいと分かった瞬間、視聴者は安心して分析できる。堺雅人は分析の手前で顔面をぶん殴ってくる。

 普通、同じ人が三人いるのは気持ち悪い。なのに気持ちいい。気持ちいい理由は、三人とも嘘じゃないからだ。乃木は乃木で生きている。FはFで生きている。リュウはリュウで生きている。サプライズのギミックとして顔を使い回しているわけじゃない。物語が堺雅人の顔を三人分必要としている。

 ……と言葉にしようとしてみているが、説明しようとすると、説明用の言葉が先に逃げる。残るのは「凄い」「ヤバい」「頭おかしい」「家族だけは」だけ。結局、なぜ凄いのか全然説明できていない。

 説明できる時点で、まだ分析できている。分析できている時点で、まだ殴られていない。まだまだ『VIVANT』は終わらない。これからも視聴者は堺雅人の演技に殴られ続けることだろう。家族だけは勘弁してください。

 

 

■著者プロフィール
かんそう
ドラマを愛するブロガー・ライター・作家。北海道の片隅で意味不明な文章を綴る長男。著書に『書けないんじゃない、考えてないだけ。』『推すな、横に並んで歩け』がある。

 

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