寺沢大介氏による漫画『ミスター味っ子』が『週刊少年マガジン』(講談社)で連載を開始してから、今年で40周年という節目を迎える。中学生でありながら天才的な腕を持つ料理人・味吉陽一が、日本料理界の重鎮「味皇」こと村田源二郎に見いだされ、ライバルたちと切磋琢磨しながら激しい料理勝負を繰り広げていくストーリーだ。
そんな本作だが原作漫画とテレビアニメ版では、驚くほど展開や設定が異なっていることをご存じだろうか。
アニメ版は、のちに『機動武闘伝Gガンダム』などを手がけた今川泰宏監督のもと、原作に登場しないオリジナルキャラクターの追加や設定変更など、大胆なアレンジが加えられた。なかでも、料理を食べた味皇が口から光を放ち、巨大化して街を破壊するといった奇想天外で過剰なリアクション演出は、当時子どもだった筆者にとっても強烈なインパクトがあった。
このように、原作漫画とは異なるアプローチもあって人気を博したアニメ版だが、実は物語の結末にも大きな違いがあった。今回は、原作漫画とアニメ版の『ミスター味っ子』が、それぞれどのように完結したのかを振り返っていきたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■漫画では「味皇超え」をかけた最後の勝負
原作漫画の終盤、主人公・味吉陽一は「味皇GP(グランプリ)」で2度の優勝を果たし、一人前の料理人として誰もが認める実力を身につけていた。その才能を高く評価する味皇料理会でも、陽一を最重要ポストに迎え入れようという話が持ち上がり、主任シェフたちもそれに賛同する。
ところが味皇は、簡単には陽一を認めなかった。料理人として本当に自分と肩を並べる存在なのかを見極めるため、味皇は「色試(いろだめ)し」「眼試(まなこだめ)し」「味試(あじだめ)し」という三番勝負を陽一に課すのである。
最初の「色試し」で陽一は敗北を喫する。続く「眼試し」も引き分けとなり、この時点で味皇が1勝1分けとリード。三番勝負は2勝した者が勝者となるルールのため、最後の「味試し」で陽一が勝ったとしても、総合的な勝敗をくつがえすことはできない状況に追い込まれた。
それでも陽一は、料理人としての誇りをかけて最後の勝負に挑む。課題は「米を使った料理」。味皇が「米のサラダ」でその技術の粋を見せつけるのに対し、陽一はかつてのライバルたちの助けを借りて、「揚げお焦げの中華あんかけ」を完成させる。そして、この一品で日本料理界の頂点に君臨する味皇を見事に打ち破ったのである。
結果的には三番勝負そのものは味皇の勝利となり、陽一の味皇料理会入りは叶わなかった。しかし、最後の一戦で自身を上回った陽一の料理への情熱を高く評価して認め、「陽一君のいるべき場所は味皇料理会ではなく、もっとほかの所なのだ」と、周囲に語るのだった。
そして、陽一をはじめとする次世代の若者たちが切り拓くであろう輝かしい未来を思い描きながら、味皇は1人静かに目を閉じる。その姿は、まるで味皇の「死」を連想させるような、静かで荘厳な幕引きであった。これは味皇の時代が終わり、陽一たち次世代へとバトンが渡されたことを象徴する、印象的な結末といえるだろう。
■「味皇の記憶喪失」から始まるアニメ最終章
一方のアニメ版の最終章は、原作漫画とは打って変わって、極めてシリアスでドラマチックな展開をたどることになる。
物語の終盤、陽一の大きな目標であり師でもあった味皇が、なんと記憶喪失に陥ってしまう。さらに、味皇料理会のシェフたちやライバルたちも、「それぞれの味」を追い求めて次々と旅立ち、1人取り残された陽一は、深い孤独と葛藤を抱えることになる。
そんな陽一に追い打ちをかけるように、「丸井のおっちゃん」こと丸井善男が母・味吉法子にプロポーズし、2人がイタリアへ渡るという話まで持ち上がる。
この状況に感情を抑えきれなくなった陽一が、幼なじみ・山岡みつ子の弟であるしげるに八つ当たりしてしまった直後、しげるが交通事故に遭うという悲劇まで発生するのである。
これまで料理を通じて多くの人とつながってきた陽一に対し、「これでもか」といわんばかりの試練が次々と襲いかかった。アニメ版の最終章は、単なる料理勝負だけでは描けない、陽一の心の葛藤や成長にも踏み込んだ物語となっていった。


