■師匠と個性を一度に失った優しいヒーロー『僕のヒーローアカデミア』

 続いては、堀越耕平さんの『僕のヒーローアカデミア』で描かれた、壊理を救うための死穢八斎會(しえはっさいかい)との戦いだ。

 指定ヴィラン団体「死穢八斎會」の若頭・オーバーホールは、組長の孫娘・壊理の体を利用し、個性を壊す薬を製造していた。主人公の“デク”こと緑谷出久と、雄英高校のビッグ3の一角・通形ミリオは、非人道的な実験に苦しむ壊理を救い出そうと決意する。

 救出作戦でひと足先に追いついたミリオは、あらゆるものが体をすり抜ける個性「透過」を駆使してオーバーホールを追い詰めるが、個性を打ち消す消失弾が壊理に向けられると、ミリオは彼女をかばって被弾し、自身の個性を失ってしまう。

 その後は個性のない体で戦い続け、デクや師匠のサー・ナイトアイたちが到着するまで何とか持ちこたえた。だが、救援に入ったナイトアイも、部下と融合して変貌したオーバーホールに重傷を負わされる。

 最後はデクが、壊理の個性「巻き戻し」によって自身の負傷を戻しながら「ワン・フォー・オール」を100%で発揮し、オーバーホールを倒すことに成功。だが、ナイトアイの命までは救えなかった。

 ミリオを育ててきたナイトアイは、最期まで弟子の未来を思い、笑顔で息を引き取る。ミリオは壊理を救えた一方、ヒーローとして磨いてきた能力と、自分を導いてくれた恩師を同時に失った。

 のちにミリオの個性は壊理の力で戻ったが、師匠が帰ってくるわけではない。救出成功の喜びだけでは終われない、あまりにも厳しい決着だった。

■死神の力を失いルキアとの別れを迎えた『BLEACH』

 最後は、久保帯人さんの『BLEACH』から、黒崎一護と藍染惣右介の決戦を紹介したい。

 護廷十三隊の隊長たちを次々と倒し、「崩玉」と融合することでさらに進化を続ける藍染。浦原喜助や一護の父・一心らの攻撃も通じず、その危険は一護の友人たちがいる空座町にまで及んでいた。

 この窮地を打開するため、一護は一心とともに修行し、「最後の月牙天衝」を会得する。しかし、それは圧倒的な力を発揮する代わりに、死神の力をすべて失うというものだった。仲間を守るために戦い続けてきた一護が選んだ、まさに苦渋の決断だったのである。

 修行を終えた一護は藍染を圧倒し、最後は「無月」を放つ。藍染の力が弱まると、浦原が戦いの最中に仕込んでいた封印の鬼道が発動。長きにわたって死神たちを苦しめた強敵との戦いはようやく決着を迎えた。しかし、平和を取り戻した一護は死神の力とともに霊を見る力も失い、やがて朽木ルキアの姿さえ見えなくなってしまう。

 ルキアとの出会いをきっかけに死神代行となった一護は、「――じゃあな ルキア」「ありがとう」と別れを告げる。互いに命をかけて助け合ってきた仲間との別れは、強敵を倒した喜び以上の喪失感が残った。

 その後の「死神代行消失篇」では、一護は仲間が傷つけられながら何もできない自分に焦りを募らせる。後に死神たちの協力で力を取り戻すが、守りたい相手を自分の手で守れない日々は、一護にとって決して平穏ではなかったはずだ。

 

 強敵を倒しても、それまでの日々がそのまま戻ってくるとは限らない。勝利に至る覚悟や奮闘だけでなく、その後に残された苦しさまで描かれているからこそ、その死闘は読者の記憶に強く残るのだろう。

 

  1. 1
  2. 2
  3. 3