Netflixドラマ『SとX』中島健人だから成立する「性のドラマ」…刺激より優しさに沼る魔性演技【かんそうの週刊ドラマレビュー】の画像
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 人気ブロガーのかんそうさんが毎週1回『ふたまん+』にてお送りする、ドラマへの熱い“感想”。今回取り上げる作品は、Netflixドラマ『SとX』。“性の悩み”というセンシティブなテーマを真正面から描く作品です。本作で主人公となるセックスセラピストを演じるのは、“ケンティー”こと中島健人さん。「アイドル」としての顔を持つ彼が、「性の専門家」という難役をいかに演じているのか。かんそう氏がその演技を紐解きます!

 

 中島健人がセックスセラピストの役……?

 実際この目でみるまでは信じられなかった。アイドル中のアイドルである中島健人が、Netflixドラマ『SとX』で、性の専門家の役をド直球で演じる。こんな前代未聞なことがあっていいのだろうかと。

 そうした不安が杞憂となるまでにかかった時間は約6秒だった。一発目の、語り出しの、出だしの、最初の、その、一声。

「セックスに悩んでいない人なんていませんから」

 お兄さんはその一瞬でわからせた。もうこの声があるなら、この人は、セックスセラピストを名乗る必要すらないだろう。路上で「大丈夫ですよ、大丈夫ですから」とか適当に白衣で呟いているだけで、人がワラワラと集まってくる。そう思わせられるくらいに、中島健人が「霜鳥壱人」という男にハマっている。この一瞬で画面に釘付けにさせられた。

 アイドルと性の専門家。普通なら一番遠い組み合わせだ。本人も「アイドルである自分がセックスをテーマにした作品に取り組む意義を深く考えた」と言っている。それでも引き受けたのは「世界共通言語」だからだ、と。

 誰にでもあるのに、誰にも言えないもの。それを中島は「特別じゃない」顔でやる。悩むことが特別じゃない、と作品の中で言い続ける霜鳥と、インタビューで「セックスという言葉が少しでもカジュアルになれば」と繰り返す中島健人がほとんど重なっている。

 彼が演じる霜鳥は、「真面目で穏やかで、偏見に晒されながらも一人ひとりに誠実に向き合う」と公式に書かれているが、ほとんど中島健人のことを言ってるのかと思った。

 Sexy Zoneの顔として「アイドル」というラベルを貼られ続けても、映画『桜のような僕の恋人』で純愛をやり、海外作品にも出て、今また「セックス」という言葉の真ん中に座った。どれだけ偏見に晒されようが「理想のアイドル」としてそこに存在し続ける。完全にニコイチ。まさにドハマリ役と言っていいだろう。

 そして霜鳥の一番ヤバいところは、知らない人間の一番恥ずかしい話を平気な顔で聞いてしまうことだ。

 クリニックの椅子に座った瞬間、相手の防御が下がる。普通なら難しい職業である。初対面での距離感が壊れている職と言わざるをえない。なのに中島健人がやると、なぜか許される。むしろ「この人になら話してもいいかも」と思わせる。理由はない。中島だからである。あの顔とあの声と、過剰にならない間合いが、知らない人間の蓋をいつの間にか開けてくる。

 霜鳥の「悩むことは特別じゃない」は脚本上の言葉であると同時に、中島健人という俳優の特権みたいなものだ。他の誰かが同じことをやったらただの啓発。中島健人がやれば物語になる。

 『SとX』の霜鳥が特にヤバイのは「性のプロなのに自分の性が動かない」ことだ。クリニックであらわれる。佑美の前であらわれる。患者の頭の中にあらわれる。セラピストなのに、患者より傷が深い。佑美に惹かれながら「踏み出せない」男である。世界共通言語である性を扱う男が、自分の言語を持ってない。

 中学の初恋が、アナウンサーになった女として戻ってくる。互いに惹かれ合うのに、霜鳥は踏み出せない。身体が心に追いつかない。トラウマがある。ここを中島は「正しい理解者」として演じたんじゃない。「わかっているくせに、それでも隣にいようとする男」として演じた。

 カウンセリングでは誰より優しいのに、自分のことは後回しにする。聞くことはできる。自分の話はできない。その歪みが、中島の顔だと妙に自然に見える。カウンセリングでは誰より言葉が多い男が、言葉をなくす瞬間。佑美に触れようとして、手が止まる瞬間。理解しようとすればするほど、霜鳥という底なしの優しさの沼に沈んでいく。

「セックスに悩んでいない人なんていませんから」と微笑む横顔。

 あれは演技なのか。それとも中島健人が、見られる人生の延長で見せたマジの表情なのか。わからないからこそ、何度も何度も見返してしまう。

 霜鳥は最後まで、「完全に治った人」にはならなかった。人を救う者として、救われない者として、完璧に聴く側であり続けた。

 この潔さが美しすぎるんです。俺はもう、霜鳥から逃れられない。ドラマが終わっても、夜中にふと、あの静かな目を思い出してゾクゾクする。

 だからこそ、霜鳥には全員「すべて」を話してしまう。あの顔とあの声とあの喋り方とあの雰囲気で、丸裸にさせられてしまう。佑美も患者も、視聴者もだ。

 画面のこっち側までカウンセリングされている気分になる。途中から「先生、俺の話も聞いてくれませんか」と呟きたくなる。誰も頼んでないのに、中島健人が人生相談を始めてくる。

 しかもエロくない。ここが一番おかしい。セックスセラピストなのに、刺激で引っ張らない。教具を駅のホームにぶちまけるシーンですら、なぜか切ない。性のプロが、性の話をしながら、性から一番遠い顔をしている。アイドルの顔で性を扱うのが危ないのではなく、アイドルの顔で性を扱わないのが危ないのだ、とわからせにくる。

 このドラマのタイトルの本当の意味がわかった気がする。SとXとはSexとX。Xは未知数。霜鳥の前では、中島健人の前では、男も女もみんな未知数になっちゃうよ、と。そういうことか。

 霜鳥は、令和の配信ドラマ史上もっとも危険で、もっとも優しい男だった。あなたも一度、診察室の椅子に座ってみてほしい。

 

■著者プロフィール
かんそう
ドラマを愛するブロガー・ライター・作家。北海道の片隅で意味不明な文章を綴る長男。著書に『書けないんじゃない、考えてないだけ。』『推すな、横に並んで歩け』がある。

 

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