昭和のロボットアニメといえば、人類の英知を集めたスーパーロボットに熱血主人公が乗り込み、健気なヒロインにサポートされながら仲間と力を合わせて戦う――それが王道でした。
その一方で、人類を襲う敵側は、異形の見た目だったり、生理的嫌悪感を煽るような爬虫類や昆虫系だったりと、不気味なビジュアルが目立ちました。
そんな子どもの視聴者にも視覚的に分かりやすい「勧善懲悪」の物語が定番でしたが、次第にそれだけではなくなっていきます。
従来の勧善懲悪の枠組みを打ち破り、敵陣営にも独自の正義や計り知れない悲劇が存在する作品が誕生するのです。その悲劇をより深め、物語に深いドラマ性をもたらしたのが、それまでの異形の怪物たちに代わって現れた「美形悪役」です。
単に征服や破壊を好む悪党ではなく、生まれながらの宿命や過酷な現状に翻弄され、選択の余地なく破滅へと突き進むことになる存在。敵であるはずの彼らが迎えた悲しい結末は、その意思が高潔であればあるほど、視聴者の胸に深い傷と余韻をもたらしました。
今回は、昭和ロボットアニメの黎明期に筆者がリアルタイムで目撃した、悲劇と哀しみに満ちあふれた印象深い美形悪役を振り返ってみたいと思います。
※本記事には、各作品の核心部分の内容も含みます。
■長浜ロマンロボシリーズを彩った「美形司令官」に訪れた悲劇
諸説あるものの、昭和のロボットアニメの中で、個人的に「美形悪役」として最初に認識したのが『勇者ライディーン』(1975年)の敵司令官「プリンス・シャーキン」でした。
古代エジプトを思わせる衣装と高貴な言葉遣い、マスクで素顔を隠すというミステリアスなビジュアルは、それまでのロボットアニメの悪役然としたイメージをくつがえし、女性ファンを中心に熱狂的な支持を集めます。
このディテールをさらに深化させていったのが、長浜忠夫監督が手がけた「長浜ロマンロボシリーズ」です。第1作『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)の地球侵攻軍司令官「大将軍ガルーダ」は、金髪に青白い肌の王子様のような美形キャラでした。
主人公・葵豹馬らと敵対する存在でしたが、彼が母と慕う女帝オレアナにだまされた挙げ句、自身の正体がアンドロイドであると知って絶望。第26話でコン・バトラーVとの死闘で致命傷を負い、彼を慕い続けたミーアの亡骸を抱いて散っていきます。
ガルーダは、高貴な出自とされながらも常に危険な最前線に立たされ、結果を求める上層部からのプレッシャーに苛まれていました。拠り所だったオレアナとの親子関係も、彼を利用するための偽りのものだと知ってしまうのです。
そんなガルーダにまつわる衝撃の事実や、彼をひたむきに愛する女性の死も相まって、視聴者の胸にその存在を深く刻んだ存在でした。
シリーズ第2作『超電磁マシーン ボルテスV』(1977年)の地球征服軍司令官「プリンス・ハイネル」も忘れられない司令官です。ボアザン帝国の皇子でありながら、地球という辺境の地の征服軍司令官として戦う彼の背景には、あまりにも残酷な背景が隠されていました。
ボアザン帝国では、「角の有無」が絶対的な階級の証であり、角がない者は人間以下の扱いを受けます。ハイネルの父であるラ・ゴール(地球名:剛健太郎)は皇位継承権を持つ貴族でしたが、角がないことが露見して失脚。労奴(労働奴隷)の身分に堕とされ、反乱に失敗した彼は地球に逃亡、そしてボアザンの侵略に備えてボルテスVを建造するのです。
一方、ラ・ゴールの妻・ロザリアは死んだと聞かされていましたが、実は彼の子ハイネルを身ごもっており、難産のために命を落とします。そのためラ・ゴールは、生まれた子のことを知らなかったのです。
ボアザンに残されたハイネルは「謀叛人の子」として迫害を受けながら、その汚名を晴らすため、父を陥れた張本人とも知らずに皇帝ザンバジルに忠誠を誓って、地球侵略の指揮を執ります。しかし、彼が地球で命をかけて戦った相手、ボルテスチームの剛健一は、彼が存在すら知らなかった異母弟でした。
最終回で、ついに皇帝の醜悪な本性を知り、それまで憎み続けた父と再会。最後は「お父さん……」とつぶやいて涙を流したハイネルは、崩れ落ちる城とともに炎に包まれるのです。数奇な運命に翻弄された男の最期は、気高く美しい貴公子そのものでした。
こうした司令官たちの悲劇的な系譜は、第3作『闘将ダイモス』(1978年)で、背中に天使のような翼を持つ美形のバーム星人・地球攻撃軍提督リヒテルにも受け継がれます。
故郷を失ったバーム星人は、移住を求めて地球側と交渉に臨みます。しかし、その交渉の場でバーム星を代表するリオン大元帥が暗殺され、そのリオンの子がリヒテルです。地球との平和的な共存を願ったリオンを毒殺したのは地球の仕業だとして、バーム星側は報復戦争を仕掛けます。
しかし、この一件はリオンと異なる思想を持つオルバンが仕組んだ陰謀でした。彼はリオンの後任の大元帥となり、地球に攻撃を仕掛けます。そして父を殺されたと思い込むリヒテルは、憎き地球攻略を担ったのです。
だが、ダイモスの抵抗もあって思うように侵略が進まず、最愛の妹エリカはダイモスの搭乗者・竜崎一矢と恋に落ちるという展開が彼を襲います。そしてついにオルバン大元帥の陰謀を知ると、提督を解任され、命も奪われかけました。
ようやく自らの過ちに気づいたリヒテルは、妹を助けるために尽力し一矢に彼女を託すと、誇りを胸に壮絶な最期を遂げたのです。
長浜忠夫氏が後半から監督を務めた『勇者ライディーン』のプリンス・シャーキンをはじめ、長浜ロマンロボシリーズ3作品のガルーダ、ハイネル、リヒテルといった美形悪役たちには、壮絶な悲劇が描かれたほかに、もう一つ決定的な共通点がありました。
それこそが、名優・市川治さんによる「声」の演技です。市川さんの持つ、気品にあふれながらも陰を帯びた艶のあるバリトンボイスは、誇り高き貴公子としての説得力を与えました。
それだけでなく、真実に気づいた彼らが終盤で見せた「絞り出すような叫び」や、最期の瞬間に漏らした「人間くさい弱音や慟哭」を見事に表現し、視聴者に大きな衝撃をもたらしたのです。


