森川ジョージ氏による熱血ボクシング漫画『はじめの一歩』(講談社)。引退したボクサー・幕之内一歩の「現役復帰説」がファンの間でささやかれるようになって久しい。パンチドランカー疑惑を理由にプロボクサーを引退した一歩は、現在、鴨川ジムのトレーナーとして第2のボクシング人生を歩んでいる。
通常であれば、引退したボクサーは肉体的に衰えるものだが、作中の描写を見るかぎり、むしろ一歩は現役時代よりも強くなっているようにしか思えない。ゆえに、現役復帰説がささやかれ続けるわけだ。
では、具体的に一歩はどのように強くなっているのだろうか。今回は、スポーツや武道で重要視される「心・技・体」の観点から、現在の一歩の進化を分析してみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■千堂も驚愕するほど強靭な足腰を誇る「体」
まずは、「心・技・体」における「体」の進化を見てみよう。
現役を引退し、鴨川ジムのトレーナーとなった一歩だが、肉体のトレーニングは現役時代と同じか、それ以上にストイックに続けている。両腕と両足には常にパワーリストを装着しており、それが日常化しすぎてスパーリングでうっかり外し忘れるほどである。
そうして鍛え上げた肉体の凄まじさを物語るエピソードが、コミックス第144巻で描かれた千堂武士とのスパーリングだ。絶対王者リカルド・マルチネスとの世界戦を前に高ぶる千堂に、一歩は半ば強引にスパーリングの相手をさせられる。しかし、大事な試合を控えた千堂を本気で殴るわけにもいかない。そこで一歩が考えたのは、クリンチで千堂の動きを封じ込めるという作戦だった。
このときの一歩のクリンチに驚いたのが千堂である。最初は笑顔で振りほどこうとするのだが、その瞬間、巨岩を連想するほどの重さを一歩から感じ取り、まったく動かせなくなってしまう。その力強さは、地道な基礎トレーニングによって培われた強靭な足腰によるものだった。
あまりのパワーに、千堂は「(自分は)何を押しとるんや!?」「さらにとんでもない土台になっとるやないか!」と、一歩の進化を称賛している。これがスパーリングではなく真剣勝負の場であったなら、一体どのような展開になっていたのだろうか。
■最後の試合で失敗した必殺「技」“新型デンプシー・ロール”を解禁
「技」における進化も凄まじい。カウンター、サウスポースタイル、パンチをつかむ技術など、現役時代には見られなかった多彩な技術を習得している。
そんな一歩の「技」で気になるものといえば、彼の代名詞だった「デンプシー・ロール」だろう。一歩は従来の横の連打に縦方向のアッパーを加えた「新型デンプシー・ロール」を完成させようと努力を重ね、現役時代の晩年には鴨川源二会長に認められるレベルにまで到達していた。
しかし、現役最後となった試合で実際にこの技を使おうとした結果、蓄積されたダメージの影響で距離感が測れなくなり、逆にカウンターを喰らうという大失態を犯した。新型デンプシー・ロールの失敗とともに、一歩は現役引退を決意したわけだ。
では、ダメージが完全に回復した引退後の現在、「新型デンプシー・ロール」はどうなっているのか。その片鱗が示されたのが、現IBF世界ジュニア・ライト級王者、ヴォルグ・ザンギエフとのスパーリングのシーンだ。
「恩返し」と称してヴォルグと全力で拳を交わし、互角の戦いを繰り広げた一歩は、「ガゼルパンチ」でヴォルグをロープ際に追い詰め、ついに「新型デンプシー・ロール」を繰り出そうとしたのである。
惜しくも千堂が止めに入ったため、この技は不発に終わったが、ヴォルグの焦りようから察するに、かつてのような距離感のトラブルは見られなかった。自身の選手生命を終わらせた因縁の必殺技を、自由自在に打てるとしたら、その強さは「現役時代を超えた」といっても過言ではないだろう。


