■人情と謎解きが交差する! 阿部寛のハマり役が光る『新参者』

 2010年にTBS系列で放送された『新参者』は、東野さんの『加賀恭一郎』シリーズを実写化した大ヒットドラマである。東京・日本橋署に赴任してきたばかりの「新参者」の刑事・加賀恭一郎を阿部寛さんが演じ、共に捜査にあたる松宮脩平役を溝端淳平さんが務めた。

 本作は初回平均視聴率21%を記録し、その後、スペシャルドラマや劇場版など計5作品が制作された人気シリーズだ。

 2011年のスペシャルドラマ『赤い指〜「新参者」加賀恭一郎再び!』では加賀の過去にスポットを当て、ストーリーに深みを与えている。

 翌年には、映画第1作『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』が公開された。本作には中井貴一さんや新垣結衣さんに加え、松坂桃李さん、菅田将暉さん、山﨑賢人さんら、のちに日本映画界を代表する俳優が一同に集結。さらに、2014年のスペシャルドラマ『“新参者”加賀恭一郎「眠りの森」』では、ヒロインのバレリーナに石原さとみさんを迎え、美しくも悲しいバレエ界の事件を重厚に展開した。

 そして2018年、映画『祈りの幕が下りる時』でシリーズはついに完結。本作ではヒロインの浅居博美役に松嶋菜々子さんを迎え、長年ベールに包まれていた加賀自身の過去と、母の失踪の謎が明かされた。 

 ドラマは1つの殺人事件を軸に物語が進む一方、各話で異なる事件関係者にスポットを当てる1話完結型の構成であった。各話には豪華なゲストが登場し、煎餅屋や料亭、瀬戸物屋など、舞台となる“人形町の商店街”で暮らす人々に焦点が当てられるのも特徴である。

 加賀は独特の観察眼と地道な聞き込みで彼らの“嘘”を暴いていくのだが、その嘘の裏には、誰かを思いやる優しさや複雑な人間模様が秘められている。これは、東野さんが生前に語っていた「人間は、変わった方がドラマチックです」という言葉を体現しているかのようだ。

 阿部さん演じる加賀の、天才的でありながら人間味溢れる個性的なキャラクターは本作の大きな魅力であり、多くの視聴者を惹きつけた。長身から相手をじっと見つめる姿には威圧感さえあるが、被害者がどのような人物で、どんな思いで生活していたのかを真摯に解き明かしていく姿には深い愛情が感じられる。

 『新参者』は事件の謎解きとしてのハラハラ感と、下町の人情を丁寧に描いたヒューマンドラマの傑作であった。

 

 ここで紹介した作品は、東野圭吾さんが遺した数ある名作のごく一部に過ぎない。もう新たな作品と出会えないと思えば、今回の突然の訃報は残念でならない。

 しかし、東野さんの残した作品は、これからも私たちを楽しませてくれるだろう。今後も東野さんの小説を原作とした実写化作品は生み出されるはずだ。実際、2026年9月6日からは、主演に香取慎吾さんを迎えたドラマ『虚ろな十字架』(WOWOW)もスタートしている。

 東野さんは生前、「ここにいる皆さんのあしたからの未来を含めた人生の中で、一番、若いのがきょうです」という言葉を残している。東野さんが世に送り出してくれた数々の素晴らしい作品や映像作品を改めて振り返りつつ、筆者自身も“今日が一番若い”という言葉を胸に、日々の歩みを重ねていきたいと思う。

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