予想外の大金星! 鎬昂昇に柴千春、本部以蔵…『刃牙』シリーズで読者を熱狂させた「まさかのジャイアントキリング」の画像
『グラップラー刃牙』完全版: BAKI THE GRAPPLER (8) (少年チャンピオン・コミックス)

 板垣恵介氏による『刃牙』シリーズは今年9月で連載35周年を迎え、現在は最新作『刃牙らへん』(秋田書店)が連載中だ。アニメ『刃牙道』も地上波放送中で、大きな盛り上がりを見せている。

 本シリーズでは、選りすぐりのファイターたちが壮絶なバトルを繰り広げるが、時には予想外の結果が描かれることもある。中でも驚かされるのが、「絶対に勝てないだろう」と思っていた人物が、まさかの逆転勝利を果たす展開だ。

 ただ単に意外性を狙ったわけではなく、予想外の勝利の裏にきちんとした理由が存在しているのも、本作のスゴさの1つだ。

 今回は歴代の『刃牙』シリーズで描かれた「誰もが予想できなかったジャイアントキリング」の中から、特に印象的だったものを振り返っていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます。

 

■コンプレックスを乗り越えた鎬昂昇の意地

 空手家・鎬昂昇と天才外科医兼格闘家・鎬紅葉は実の兄弟だが、タイプがまるで違う。弟の昂昇は空手の技をひたすら磨き上げたのに対し、兄の紅葉は医学知識をフル活用した肉体改造による圧倒的な身体能力を武器にしてきた。

 勉強、スポーツなどあらゆる面において兄に劣っていた昂昇は、幼い頃から兄を尊敬する一方、強烈なコンプレックスをいだいていた。紅葉も弟のことを「凡人」呼ばわりし、守るべき対象と見なしており、ふたりの実力差は明らかだった。しかし、「最大トーナメント編」にてまさかの兄弟対決が実現すると、そのバトルは意外な結末を迎えることになる。

 まず弟の昂昇は、指の力で神経を切断する「紐切り」によって、兄・紅葉の両目の視力を奪うことに成功。だが、紅葉はその場で視神経をつなぎ合わせる「手術」を試合中に行い、何事もなかったかのように復活。そして兄として、弟を諭すような口調で棄権することを勧めた。

 だが、勝負はそこで終わらなかった。昂昇は兄の提案を突っぱねると、負けを覚悟しながらも立ち向かっていく。歯向かってくる弟に対して、兄も本気で技をぶつけるが、それでも昂昇は倒れない。何度攻撃を食らっても紅葉にまっすぐ向かっていった。

 どれほどボロボロになっても戦うことを止めようとしない昂昇の執念に、ついに紅葉は観念……。昂昇を勝者と認め、自らは勝負を棄権した。まさかの決着に会場のボルテージは最高潮に。紅葉は戦いに対する覚悟が足りなかったことを昂昇に教えられ、自ら幕を引いたのである。

 絶対勝てないと思っていた兄・紅葉に粘り勝ちした経験が糧となり、昂昇は一皮むけた存在となる。これに対して、地上最強の生物・範馬勇次郎も「たかだか1時間余りで蚊トンボを獅子に変化(かえ)る 勝利とはそういうものだ」とコメントしている。

■王者相手に泥臭い勝利をおさめた柴千春

 『刃牙』シリーズのジャイアントキリングといえば、同じく「最大トーナメント編」で描かれた柴千春とアイアン・マイケルの試合を思い浮かべる人も多いだろう。単なる暴走族の特攻隊長で、格闘技は素人の千春が、プロボクシングのヘヴィ級チャンピオンに勝つなど、誰も予想できなかった。

 そもそも1回戦でも千春は、日本を代表する柔道家の畑中公平を相手に左腕を折られながら大金星をおさめている。その大けがをした状態で無傷のプロボクサーのアイアンと戦うというのは、あまりにも絶望的な状況だったのである。

 試合の序盤、千春はポケットに隠していた砂で目潰しを食らわせ、さらしで自分とアイアンの足を結びつける。苦し紛れの奇策に見えたが、千春の思惑通りにアイアンは動きを封じられ、一方的に攻撃を受け続けることになった。

 だが、そこでダウンするようなヌルい相手ではない。立ち上がったアイアンは、千春に強烈なパンチを数発お見舞いしただけで素人との圧倒的な差を見せつけ、一瞬で形勢逆転した。

 それでも千春の心はくじけず、渾身の頭突きやパンチを食らわせてアイアンを再び追い詰めていく。そして「(この戦いは)もうボクシングではない」と悟ったアイアンは、グラブを捨てて生身の拳を握りしめた。

 そこからはボクシングではなく純粋な闘争となり、真正面からの殴り合いとなる。シンプルな意地と意地のぶつかり合いに、見守る観客の熱量も高まっていく。

 技術や腕力の差で押し切られそうになる中、千春は額でアイアンのパンチを受け止め、王者の拳を砕いた。ボクサー生命を危ぶんだアイアン陣営がタオルを投げ入れたが、アイアンは続行を要求。そのままノーガードの殴り合いを繰り広げたが、ついに見かねたアイアン陣営のセコンドが乱入。結果として、アイアンの反則負けという形で壮絶なバトルは幕を閉じた。

 実力差やケガというハンデをものともせず、ド根性と度胸を武器に勝利をおさめた千春。彼の勇姿は多くの読者の心に刻み込まれたことだろう。

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