『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人氏、作画:アベツカサ氏)は、勇者ヒンメル一行が世界を救ってから数十年後の時代を描く「後日譚ファンタジー」として人気を博している作品である。
物語のラスボスになりがちな魔王も第1話の時点で討伐されており、回想シーンを含め作中で姿を見せたことは一度もない。ヒンメルたちを最も苦しめたであろう魔王が何者だったのか、具体的に描かれていないからこそ気になってしまうのがファンの心理というものだろう。
幸いにも、作中では魔王についての情報が断片的には示されている。今回は『葬送のフリーレン』の世界における、かつてのラスボス・魔王の正体について、明らかになっている情報を振り返りながら考えてみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■フリーレンの魔力偽装を看破? 実力はどれほどだったのか
本作の魔王について、まず気になるのは「どれほど強かったか?」という点だろう。“断頭台のアウラ”や“黄金郷のマハト”といったチート級の能力を持つ魔族たちを束ねていた魔王の力については、わずかではあるが何人かが証言している。
勇者パーティーの一員として魔王と直接戦った主人公・フリーレンは、当時の戦いを振り返り「ヒンメル、アイゼン、ハイター、私、一人でも欠けていたら倒せなかった」と魔王の強さを評価している。
また、第55話でフリーレンの複製体がフェルンを追い詰めた正体不明の魔法について、フリーレン本人は「あれを見せるほど追い詰められたのは80年振りかな」と語っている。
「一級魔法使い試験編」から80年前といえば、ちょうど勇者パーティーが魔王討伐を成し遂げた時期だ。天才魔法使いであるフェルンに「魔力をまったく感じない」と言わしめたこの謎の魔法は、魔王との戦いで使用したフリーレンの切り札だったのかもしれない。
また、現代最強の大魔法使い・ゼーリエから見ても、魔王は卓越した存在だったようだ。
第57話では、フリーレンが魔族をだますために長年鍛え続けた魔力偽装を、魔王はひと目で見抜いたとゼーリエは語っている。フリーレンの最大の武器が通用しなかったとすれば、「勇者一行全員の力がなければ勝利はできなかった」というフリーレンの言葉にも説得力が増す。
■人類を滅ぼしかけながらも共存を目指していた
魔王の強大さについてはなんとなく見えてきたが、彼(あるいは彼女?)の人物像はどのようなものだったのだろうか。
「言葉を話す魔物」と定義づけられ、人間とは決して分かり合えない存在として描かれる魔族。その頂点に立つ魔王が何を考えていたかについて、作中で少しだけ匂わされている。
魔王は少なくとも1000年以上前から人類に戦争を仕掛け、人類の勢力圏を全盛期の3分の1にまで追い詰めたとされる。しかし、その本心についてフリーレンは「魔王は共存を願っていた」と言うのだ。
共存を願っているのに滅ぼそうとするのはおかしな話に聞こえるが、魔族は人間には到底理解できない思考回路を持つ。魔王と同じく人類との共存を望んだ“黄金郷のマハト”が、結果として自分を受け入れた城塞都市ヴァイゼを滅ぼしたように、魔族の言う「共存」や「好意」は人類に害を成すことがあるのだ。魔王もまた、同様の存在だったのではないだろうか。
魔王が何を思って人類との共存を願ったのか……。その真意は、物語の核心に触れるであろう謎の1つであり、今後の展開で解き明かされることを期待したいポイントだ。


