■不在のときこそ浮き彫りになる夫への純粋な想い
悟空は本来なら心臓病で命を落とすはずであった。“悟空が死んだ未来”を描いた1993年放送のテレビスペシャル『ドラゴンボールZ 絶望への反抗!! 残された超戦士・悟飯とトランクス』。そこには、父・牛魔王としめやかに暮らすチチの姿があり、その家には亡き夫も含めた家族3人の写真が飾られていた。そんな姿に、悟空に対する父の静かな思いがにじむ。
一方、本編でもその感情は変わらない。アニメの第133話、第134話では、ヤムチャによって運び込まれた悟空が心臓病に苦しむ姿を前に、「悟空さ、しっかりしてけれ!」とチチは涙ぐむ。枕元にひざまずき、必死に回復を願うその姿からは、ふだんの厳しさとは異なる、夫を純粋に愛する妻としての本心が感じられた。
しかし、その悟空もセルとの戦いの末に命を落とすことになる。悟空の死を悟飯から知らされた瞬間、チチはその場で泣き崩れる。彼女にとってはラディッツ戦に続き、これが2度目の夫の死だ。どれだけふだん怒っていても、心の底にある夫への深い愛がこぼれ出た瞬間であった。
そんな絶望のどん底から7年——ついに再会の機会が訪れる。漫画の第426話にて、天下一武道会出場のため、あの世から悟空が1日だけ帰ってくることを知らされると、チチは一気にハイテンションに。そして、「エステティックサロンにでもかよっとくんだったな〜」と再会を待ちわびる。その姿には、少女だった頃にフライパン山で出会ったときと変わらない、悟空への純粋な乙女心が表れていた。
チチの“悟空愛”が垣間見える印象的な場面を振り返ってきたが、その関係性は単なる一方的なものではない。『ドラゴンボール超』では、チチのことが好きだと語る悟空に、ベジータが「気の強い女しかいないサイヤ人の血だ」と理由付けする場面もあった。常に尻に敷かれているように見える悟空は、むしろチチの気の強さを気に入り、サイヤ人の本能で惹かれていた可能性もありうる。
一見、戦いにしか興味のない悟空と、鬼嫁と呼ばれるチチ。そこには、この2人だからこそ成り立つ、特別な夫婦愛の形がたしかに存在していた。
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