鬼嫁描写ばかりじゃない…『ドラゴンボール』悟空への愛情こぼれた「チチの名エピソード」の画像
『DRAGON BALL』 #26(DVD) ©バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

 鳥山明さんの名作バトル漫画『ドラゴンボール』の主人公・孫悟空の妻といえばチチである。子どもの頃に交わしたピュアな約束を信じて待ち続け、天下一武道会でついに悟空とゴールイン。しかし、長男・悟飯が生まれてからは超スパルタな教育ママへと激変し、戦いに明け暮れる夫に激怒する姿がおなじみになった。

 世間では、すっかり「鬼嫁キャラ」が定着しているチチだが、彼女の本質は本当にそれだけなのだろうか。

 強くなることにしか興味のない夫に怒るのも、裏を返せば「家族みんなで平穏に暮らしたい」という強烈な愛情の裏返しのはずである。実際に漫画やアニメを丁寧に振り返ってみると、単なる怒りっぽい妻という枠におさまらない、悟空への一途な想いがこれでもかと描かれていた。

 今回は、そんなチチの“悟空愛”があふれる名場面を振り返ってみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

 

■教育ママの印象とは裏腹に…“らしくない”夫の姿に動揺

 チチといえば、やはり教育熱心な母親というイメージが強い。その影響もあってか、悟飯は成長後に研究者として学者の道へ進み、次男・悟天も『ドラゴンボール超』にてブルーハルハイスクールという進学校へ通っている。結果だけを見れば、チチが徹底してきた教育方針は十分に成功したといえるだろう。

 しかし、そんなチチにとって、息子たちの勉強だけが最優先だったわけではない。そのことがうかがえる場面も存在する。

 それが、1991年公開の劇場版『ドラゴンボールZ とびっきりの最強対最強』である。物語序盤、自室の机に座る悟飯に対して、悟空は珍しく「頑張って宿題やれよ」と勉強を促す発言をする。

 教育熱心なチチであれば、本来なら大喜びしてもおかしくないひと言だ。ところが彼女はそれを歓迎するどころか、「戦いすぎておかしくなっちゃったんじゃ……」と、ふだんとは違う夫の様子に動揺を隠せない。

 ついさっきまで最優先事項だったはずの悟飯の勉強に目もくれず、「しっかりしてけろ」と、そのまま悟空の背中を抱き寄せようとした(もっとも、悟空は早く宿題を終わらせてキャンプへ出発したかっただけなのだが……)。

 教育ママという印象が先行しがちなチチだが、その本質は、自由奔放な悟空を誰よりも理解し、いざ悟空が“らしくない姿”を見せると激しく動揺してしまう愛情深い妻なのである。

■戦いの裏側で孫家を支え続けた“現実担当”

 次は、孫家の食事事情に着目してみたい。

 セルとの決戦を前に精神と時の部屋での修行を終えた悟空は、残りの9日間をのんびり過ごすことにし、久々に家族水入らずでピクニックへ出かける。そこでチチが用意した料理の数々はボリューム満点でありながら、どれも実においしそうなものばかりであった。

 もっとも、こうした食事を日常的に用意する負担は決して小さくなかったはずである。周知の通り、悟空をはじめとするサイヤ人はとにかく大食いだ。作中では少年時代の悟空が、天下一武道会のジャッキー・チュン(亀仙人)の優勝賞金50万ゼニーのほとんどを、一食で食べ尽くしてしまったほどなのだ。

 しかも、多い時には悟空、悟飯、悟天という3人のサイヤ人が同居しており、エンゲル係数が恐ろしく高いであろう孫家。実際、生活を支えていたチチの父・牛魔王の莫大な財産も、長年の生活に費やしてほとんど底をついてしまった。そう考えれば、戦い以外ほとんど興味を示さず、定職にも就かない悟空に対して、チチが「働け」と口うるさく言い続けたのも無理はないだろう。

 しかも彼女は、単に家族の胃袋を満たしていただけではない。漫画の第427話にて孫家を訪れたビーデルは、初めてチチの手料理を口にして、「うちのコックよりずっとおいしいわ!」と驚きを見せている。

 ビーデルの父、ミスター・サタンは世界を救った英雄(と世間では思われている富豪)であり、ビーデル自身もお嬢様であることを踏まえれば、その評価の高さがうかがえる。チチの料理の腕前は、文字通り超一流といえるだろう。

 世界を何度も救ってきた孫一家を陰から支えていたのは、間違いなくチチの“食”だったのである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3