Netflixで『古畑任三郎』が配信されたので、絶対に観てほしい「珠玉回」を3話、語らせてくれ【かんそうの週刊ドラマレビュー】の画像
画像提供/かんそう

 人気ブロガーのかんそうさんが毎週1回『ふたまん+』にてお送りする、ドラマへの熱い“感想”。今回は、6月からNetflixでの配信もスタートした名作ドラマ『古畑任三郎』。田村正和と三谷幸喜が贈る極上ミステリーの「傑作回」に迫ります!

 

 古畑任三郎がついにNetflixで配信開始されてしまった。

 田村正和演じる古畑の、あの柔らかい物腰に隠れた容赦ない推理。常軌を逸した西村雅彦(現:西村まさ彦)演じる今泉のアホ具合。三谷幸喜の会話劇のキレ。犯人たちの人間臭さ。全部が一気に蘇ってくる。古畑はただのミステリードラマじゃない。人間の愚かさとプライドと、ちょっとしたすれ違いが殺人にまでエスカレートする哀しさを、痛快に、時に切なく描き切る、まさにエンターテイメントの極み。

 今回は、Netflixで配信されているシーズン1、2、3それぞれから、「絶対にこれは見ろ」というエピソードを3つピックアップしたい。

 

■汚れた王将(坂東八十助/シーズン1第5話)

 将棋棋士・米沢八段(坂東八十助/現・十代目 坂東三津五郎)が、タイトル戦の封じ手で不正を働こうとして立会人を殺す話。将棋ファンじゃなくても、棋士の「合理性」と「プライド」が事件の核になってて最高に刺さる。

 まず坂東八十助の演技が凄い。和服をビシッと着こなし、冷静沈着で一言一言に重みがある。完璧主義者の棋士が、ちょっとした不正から殺人に走る過程が痛ましい。封じ手を白紙で提出したはずなのに、次の日開封されたら自分の指し手が入ってる……このトリックがまた巧妙。カーボン紙とか爪楊枝とか、細かい小道具の使い方が三谷幸喜らしい。

 最後まで古畑の推理は確証がなく、最後の最後には犯人の価値観を突く。米沢が「なぜ飛車成りをしなかったのか」を問い詰められるシーンは鳥肌が立つ。人生を賭けた勝負で自ら負けを選ぶしかない状況に追い込まれる棋士の投了、あれは将棋の盤上そのものが事件のメタファーになってる。米沢の内面と将棋がリンクする構成が美しい。

 坂東の「潔く負けを認める」表情が、名人らしい品格すら感じさせて、ただの犯人じゃなく「人間」として胸に残る。初期の古畑の名作。

 

■しゃべりすぎた男(明石家さんま/シーズン2第1話)

 明石家さんま演じる敏腕弁護士・小清水潔が、邪魔になった恋人を殺して今泉(西村雅彦)に罪をなすりつけ、自分でその弁護を買って出る。

 さんまの小清水は最高に魅力的な悪党。コミカルで飄々としてるのに、計算高い。法廷での反対尋問シーンは圧巻で、検察側証人をやり込める舌戦がドラマそのもの。最初は今泉が犯人に仕立て上げられて、古畑が外からじわじわ疑う展開が緊張感ハンパない。細かいセリフの積み重ねが古畑の推理の糧になる。

 ここでの古畑は、直接捜査しにくい法廷の中で、限られた接触と記録から真相に迫る。クライマックスの古畑vs小清水の対決で、言葉のぶつかり合いが最高潮になるのは三谷脚本の会話劇の真骨頂。法廷物としても密度がすごい。

 個人的に好きなポイントは、今泉が絡むコミカルさとシリアスのバランス。さんまの提案でプロットが変わったらしいけど、それが正解だった。しゃべる男がしゃべりすぎて墓穴掘る。笑えるのに、どこか哀しい。Netflix配信されてる中でもトップクラスのエンタメ回。

「友人の人生がかかってるんです。必ず尻尾を掴んでみせます」
「殺人なんてできるわけがない」

 普段はほとんど見せない古畑の今泉に対する想いが垣間見えるのも熱い。

 

■哀しき完全犯罪(田中美佐子/シーズン3第7話)

 女流棋士・小田嶋さくら(田中美佐子)が、モラハラ夫を殺す倒叙寄りの人間ドラマ。ミステリとしては粗い部分もあるが、人間ドラマとしてシリーズ屈指の名作。タイトル通りの「哀しさ」がラストに爆発する。

 田中美佐子のさくらが素晴らしい。大雑把で不器用、夫に「理想の妻」を押し付けられて生きづらい日常が痛い。小日向文世が演じる夫がまた完璧なモラハラ野郎で、几帳面で口うるさくて、妻の仕事すら辞めさせようとする、見てるだけでイライラするくらい憎らしい。でもラストで価値観がひっくり返る。

「なにがいけなかったんでしょうか」
「なにが…? フフフ。全部いけませんでしたよ」

 抑圧から解放されたのに、夫の言ってた「大雑把さ」が彼女の限界だったことを視聴者に突きつける。ある意味、夫の言葉が正しかったと気づく切なさ。完全犯罪は失敗するが、それが彼女の「自分らしさ」でもある。

 古畑はここでは対決者じゃなく、彼女の物語を引き立てる存在になる。最後に純白のワンピースを着てメイクをして、古畑にエスコートされながら出頭するシーンは言葉にならない。哀しいのに、どこか清々しい。古畑の深みを味わうなら外せない一話。

 

 現在、Netflixで配信されてないエピソードにも名作が山ほどある。「赤か、青か(木村拓哉)」、「しばしのお別れ(山口智子)」、「古畑任三郎 vs SMAP(SMAP)」、「黒岩博士の恐怖(緒形拳)」、「古い友人に会う(津川雅彦)」、「すべて閣下の仕業(松本幸四郎)」、「今、蘇る死(石坂浩二藤原竜也)」、「フェアな殺人者(イチロー)」、どれも語り尽くせない魅力がある。むしろこっちが本体と言っても差し支えない。絶対にDVDも買ってほしい。

 『古畑任三郎』は30年近く経っても色褪せない。三谷幸喜の脚本と田村正和の古畑が作り上げた世界は、今見ても新鮮に映るはず。お察しします。

 

■著者プロフィール
かんそう
ブロガー・ライター・作家。北海道の片隅で意味不明な文章を綴る長男。
著書に『書けないんじゃない、考えてないだけ。』『推すな、横に並んで歩け』がある。

 

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