■実は誰よりも命を救いたかった…父親の治療でBJと見せた、まさかの共闘

 キリコが“生”に対して深い葛藤を抱えていることが描かれるのが、先にも紹介した彼の父親の治療を巡るエピソード「弁があった!」である。

 原因不明の激しい呼吸困難に苦しむキリコの父親。もはや手の施しようがない状況だと判断したキリコは、自らの手で父親を安楽死させようと決意する。

 その矢先、キリコの妹・ユリから手術依頼を受けたB・Jが、原因を探るべく手術を開始する。しかし、キリコは過去に3度にわたり手術をしても原因が分からなかったことから、B・Jの試みは意味がないと強く反発するのであった。

 手術を開始したものの、なかなか原因を特定できずに苦悩するB・J。「あとは俺に任せろ」と、安楽死の処置を迫るキリコを制しながら、B・Jは気官内に空気を送るという方法を試す。その結果、気官の弁から空気が漏れていることをついに突き止めた。

 これで助けられると喜ぶB・Jだったが、時すでに遅く、苦しむ父親を救おうとしたキリコが、すでに毒を注射していた。父親はそのまま息を引き取り、キリコの行為に激高したB・Jは彼を殴りつけ、「命をなんだと思ってやがるんだ!!」と叫ぶのである。

 原因が分かるのがあと1歩早ければ父親は救われたかもしれない、あまりにも悲しい結末だ。最後は自らの手で父親の命を奪ってしまったキリコだが、そこには愛する父親だからこそ自分の手で安らかに送ってやりたいという、彼の葛藤が伝わるエピソードだった。

■「おれだって医者だ」治せる患者を救うために奔走する姿も

 “死神”のイメージが強いキリコだが、彼が患者を助けるために奔走したエピソードもある。

 たとえば、貨物船の船内で蔓延した謎の病原菌を巡る「恐怖菌」のエピソードにて、B・Jがキリコのことを「この男は『死に神の化身』と呼ばれてる殺し屋だ!」と紹介する場面がある。それに対してキリコは、「おれだって殺してばかりはいやしない なおせる相手ならなおすよ やせてもかれても一応は医者だからな」と静かにつぶやき、治療に肯定的な姿勢を見せている。

 また、エピソード「死への一時間」では、キリコの毒薬を誤って飲んでしまった女性をB・Jと協力して助ける姿が描かれる。

 あと2分で患者が死んでしまうという極限状況の中、B・Jとともに手術を成功させ、女性の命を汗だくになって救ったキリコ。その後、B・Jから「殺すのと助けるのと気分はどっちがいい?」とB・Jに問われ、「ふざけるな おれも医者のはしくれだ」「命が助かるにこしたことはないさ……」と、本音を漏らすのであった。

 こうした言動を見ると、キリコは安楽死という手段を選びながらも、その根底には医者として人の命を救いたいという強い信念が見えるのだ。

 

 助からないと分かっている患者に安楽死を施すドクター・キリコ。最後に、「二人の黒い医者」でキリコが発した、彼が持つ死生観を象徴するセリフを紹介したい。

 「生きものは死ぬ時には自然に死ぬもんだ……それを人間だけが………無理に生きさせようとする」「どっちが正しいかね」

 安楽死は現代の日本では法的に認められていないものの、キリコの行為には大いに考えさせられる。人間の死はどうあるべきか——キリコは、この重いテーマを読者に投げかける『ブラック・ジャック』に不可欠な大きな存在なのだ。

 

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