甘酸っぱい王道ラブストーリーから心あたたまるヒューマンドラマ、背筋が凍るミステリーやホラー、そして夢と魔法に彩られたファンタジーまで、多彩な名作が次々と生まれた90年代の少女漫画。発売日にはお小遣いを握りしめて書店へ駆け込み、胸を高鳴らせながらページをめくった記憶を持つ人も多いはずだ。
そうして作品の世界に足を踏み入れた読者は、時に笑い、時に涙しながら物語の展開を追っていく。クライマックスへと加速し始めると高揚感も増し、気づけば、主人公たちの人生を追体験するかのように深く没入しているのである。
そして迎える最終回。物語の結末に胸を締めつけられ、終わってしまう寂しさと同時に温かな余韻に包まれる感覚は、言葉に尽くしがたいものがある。そこで90年代の名作少女漫画をピックアップし、5回にわたってそれぞれが迎えた結末をあらためて振り返ってみたい。
(第4回/第5回)
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■華やかなファッションにも憧れた『ご近所物語』
『ご近所物語』は、90年代の『りぼん』を代表する人気漫画家・矢沢あいさんが、大ヒット作『天使なんかじゃない』に続いて1995年に発表した作品である。甘酸っぱい恋愛や友情に加え、作中で描かれる華やかなファッションの数々は、当時の少女の心をつかみ、実際にコラボアイテムが展開されるほどの人気を誇った。
主人公は、マイブランドを持つことを夢見る矢澤芸術学院の服飾科1年生・幸田実果子。彼女のそばには、いつも幼なじみの山口ツトムがおり、やがて2人は恋人同士になる。
本作は『天ない』とのつながりも印象的で、冴島翠や須藤晃ら懐かしい顔ぶれが登場するほか、このツトムは中川ケンにそっくりという設定だ。あの世界観と地続きというだけで、ファンからすると胸が高鳴る展開である。
作中で実果子は友人の神崎リサらとともにサークル「AKINDO」を立ち上げ、自作の服を販売するという小さな一歩を踏み出す。恋と同じくらい、本気で夢に向き合っている姿が丁寧に描かれるのも本作の魅力だ。
だが、恋と夢を同時に追いかけるのは容易ではない。すれ違い、ぶつかり、それでも向き合い続けることで二人は絆を深めていく。そこにAKINDOの仲間たちも絡み合い、恋の勢いはますます加速していった。
物語のクライマックスでは、実果子に大きな転機が訪れる。学園祭のファッションショーで発表したウエディングドレスが個人部門でグランプリを受賞し、リサとともにロンドン留学の話が舞い込んだのである。
だが恋人との未来を選び、留学を辞退したリサ。一方、実果子は愛を取るか夢を取るかで激しく揺れる。さらに、ヘアメイクの夢を追ってロンドンに渡るヤザガクの卒業生・如月星次から、夢に対する甘えた考えを指摘され決断できなくなってしまう。
引き止めてほしいと寄りかかる実果子に対し、ツトムは自分のひと言が彼女の人生を左右することを考え、複雑な気持ちを抱いていた。そんなツトムは、実果子の父・広彦の誘いでカメラマンのアシスタントをすることに。彼もまた新たな人生の一歩を踏み出したのである。
決心がつかず、「ツトムがいればいい」と夢を諦めようとしていた実果子にきっかけを与えたのは、他でもないツトムだった。「おまえにとってロンドン留学はもっと楽しくて、わくわくするすげーハッピーな出来事のはずだろ? 笑って行ってこい」と後押しされた実果子は、自分を信じて送り出そうとする彼の姿から、支え合う愛のかたちに気づく。
最終的に彼女は夢を追う決意を固め、AKINDOの皆に見送られて晴れやかに旅立つのだった。そして物語は、「手に入れたいものはハッピーエンドじゃない。鍛え抜かれたハッピーマインドだ」というポジティブなメッセージとともに幕を下ろした。
ちなみにクライマックスでは、離婚した実果子の両親にも妊娠・再婚というドラマが訪れている。このとき生まれた妹・実和子は、1999年から連載された『Paradise Kiss』に登場し、新たな物語を紡いでいる。
実果子は人生の岐路に立ち、誰かに幸せにしてもらうことから、自分で未来を切り開くことに意識が変わっていった。恋や夢に悩み、迷いながらも成長していくその姿は、将来に思い悩む読者にとっても大きなエールとなったことだろう。
何度でも読み返したい!漫画『ご近所物語』をAmazonでチェック



