吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』は、主人公・竈門炭治郎が、鬼に変えられてしまった妹・禰󠄀豆子を救うため、鬼と戦う壮大な物語である。
その第1話は、傷ついた妹を背負う炭治郎の鬼気迫る様子から幕を開ける。亡き父に代わり、炭売りとして母と幼い兄弟たちを支えていた炭治郎の穏やかな日常と、その家族が鬼によって惨殺されるという悲劇。このジェットコースターのような緩急ある展開が、読者の心を惹きつけた。
実はそんな第1話には、物語の根幹にかかわる伏線がいくつも隠されている。ささいな描写にさえ後の展開へのヒントが散りばめられており、物語の全貌を知ってからあらためて見返してみると、その緻密に練られたストーリーに誰もが驚かされるだろう。
魅力的なキャラクターやバトルシーンはもちろんのこと、こうした奥深いストーリーもまた、『鬼滅の刃』が世代を超えて愛される理由の1つなのである。
そこで今回は、『鬼滅の刃』第1話に隠された伏線の中から、アニメですでに回収されているものを厳選して紹介していこう。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■炭治郎の鋭い嗅覚…戦闘における最大の武器
主人公・竈門炭治郎は人並み外れた優れた嗅覚を持つキャラクターだ。第1話では、炭を売りに訪れた町で皿を割った犯人探しを頼まれ、現場の残り香だけで犯人が猫であることを突きとめている。
この「鋭い嗅覚」は、のちに鬼との戦いにおいて重要な能力であることが判明していく。炭治郎は匂いから人の感情を読み取るだけでなく、鬼の急所まで探り当てることさえ可能だ。さらに、鬼殺隊の誰もが長年見つけ出すことができなかった鬼の始祖・鬼舞辻無惨を嗅ぎ分け、群衆の中から見つけ出したこともあった。
特筆すべきは、戦闘中に視ることができた“隙の糸”である。これは、敵の隙を匂いで嗅ぎ分けた際に、その急所へとつながる糸が見えるという炭治郎固有の能力だ。糸がピンと張ったタイミングで斬り込むと、まるで刃が糸に強く引き寄せられるかのように正確に相手の急所を捉えることができる。これによって育手・鱗滝左近次との修行の最終関門であった大岩を切ることにも成功していた。
さらに「刀鍛冶の里編」では、戦闘用絡繰人形「縁壱零式」との訓練を経て、匂いによって相手の次の攻撃を予測する「動作予知能力」も習得していた。
相手の隙や急所、さらには次の動作を匂いで嗅ぎ分けてしまうなんて、炭治郎の潜在能力の凄さには驚かされる。第1話で描かれたささいな特技が、のちに熾烈を極める戦いの中で彼の生命線ともなる特異能力へとなっていく様子は、本作のストーリーがいかに緻密に設計されているかを物語っている。
■三郎爺さんが語った「鬼狩り様」の正体
第1話において、帰りが遅くなってしまった炭治郎を呼びとめたのが、三郎爺さんだ。彼は炭治郎に「鬼が出るぞ」と警告し、自身の家に泊まるよう促した。
三郎爺さんは「昔から人喰い鬼は日が暮れるとうろつき出す」と語り、夜は外出してはいけないと忠告する。しかし、この時の炭治郎はまだ鬼の存在を信じておらず、「怖がらなくても鬼なんかいないよ」と、気にも留めない様子だった。
それでもなお、三郎爺さんは鬼の恐ろしさを説き、「鬼狩り様が鬼を斬ってくれるんだよ 昔から」とつぶやく。そう、この「鬼狩り様」こそ、炭治郎自身が所属することになる組織「鬼殺隊」を指す言葉だったのだ。
炭治郎の反応からも分かるように、多くの人々は「鬼などいない」と考えていた。その中で鬼殺隊は、政府の非公認組織として人知れず鬼から人間を守ってきたのである。三郎爺さんのように、昔からの言い伝えを知る人々の間では、彼らは「鬼狩り様」として認識されていたのだろう。
たったひと言のセリフではあるが、三郎爺さんの言葉は「鬼殺隊」の存在を初めて示唆する、極めて重要な伏線になっていた。


