■令和ならではの共感ポイントも…

 また、『花嫁殿のレシピ』はただの恋愛ものでも終わらない。あきらがジェンダーについての悩みを抱えているところにも、令和の少女マンガらしさが詰まっている気がした。

 父親に「おまえが男の子ならいいのに」と言われてから、あきらのなかで“女の子であること”のすべてが輝きをなくしてしまった。自分の名前を嫌がって、髪を切って、大好きだったりぼんもスカートも遠ざけ、女の子に生まれた罪悪感を薄めようとしてきたのだ。それはひとえに、仕事に懸命な父の力になれる自分でいたかったから。「そうしないと私はきっと…必要ない人間だから」と。

 そんなあきらの“呪い”を解いたのが、湊だった。

主人公のあきらは湊に、経営者である父親への複雑な思いを打ち明ける

「必要ないわけない! 他人にだけ優しくして自分を雑に扱うなよ。少しでいいから…その優しさを自分に使ってやってよ。そしたらきっと…結城さんのことが死ぬほど好きで…大切だって。そういう人が必ず現れる。結城さんもその人を好きになってこの人しかいないって思える相手と幸せな結婚ができるよ」

 正直なところ、あきらに感情移入をしているわたしは、「いや、“誰か”じゃなくて、湊がいいんだよ~!」と思ったが、そもそもはエリを一途に想っている湊だからこそ、好きになったわけで……(ごにょごにょ)。

 “好きな人が、必ずしも自分を好きになるわけではない”という当たり前の事実を、『花嫁殿のレシピ』はしっかりと描いている。恋が一直線に進まないからこそ、大きく感情が揺さぶられるのだ。

■あきらと湊のじれったい関係を揺さぶる、魅力的な登場人物たち

 また、あきらと湊以外の登場人物も魅力的なのがまたいい。

 まず、湊の彼女・エリは、同性からも憧れられる最強モテ女子だ。サッカー部のマネージャーで、部員たちのマドンナ。ミサンガを器用に作れちゃう設定も、マジ完璧すぎる……!

 「人懐っこくて誰にでも話しかけるし話したやつの顔は忘れない。いつだって笑ってて気がついたら周りに好かれてる」と湊が言うように、非の打ちどころがない。あきらの恋を応援しなければならないはずなのに、「エリみたいな女の子になりたいな」と憧れてしまっている自分がいた。

 そして、忘れてはならないのが、あきらに想いを寄せる滝澤。彼も、湊とはタイプは違うがいわゆるモテる男の子だ。サッカー部の次期エースで、とにかく爽やかなイケメン。それだけでなく、感情をストレートに表すし、まっすぐに気持ちを伝えることができる、どちらかと言えば、感情を隠すタイプの湊と相反する存在だ。

サッカー部の次期エース候補の滝澤から「応援来てよ」と誘われるあきら

 だからこそ、あきらの感情がよりくっきりと浮かび上がる。滝澤といるときは、愛されているのが分かるのに、なぜか心がかげってしまう。反対に、湊といるときは切ない気持ちを感じることが多いのに、目が逸せない。彼の存在は、あきらに本心を気づかせるとともに、“誰かにまっすぐ想われること”の温かさを教えてくれる。

 少女マンガって、やっぱり面白い。大人になったいまだからこそ、“あの頃”とはちがう面白さに出合うことができた。そのきっかけをくれた『花嫁殿のレシピ』に心からの感謝をこめて。

 

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