ARG(日常侵蝕ゲーム)を手がけるゲームブランド「第四境界」の総監督・藤澤仁さんは小説家であり、ゲームクリエイターとして活躍されている。現在はストーリーノートというシナリオ制作会社を率いているが、その前はスクウェア・エニックスで20年にわたり『ドラゴンクエスト』シリーズを手がけていた。『ドラゴンクエスト』シリーズで培った「遊びの遺伝子」は、いま「第四境界」のARGのどんなところに活かされているのだろうか。
――ARGを手がける藤澤さんのルーツについて伺います。まず、子どものころに好きだったエンタメはなんでしょう?
藤澤 小説が好きな子でしたね。僕らが子どものころは『Dr.スランプ』や『ドラえもん』もあって、漫画がメインカルチャーという人が多かったと思うんですけど、僕は漫画よりも小説ばかり読んでいました。暇さえあれば本を読んでいる少年期だったと思います。だから、僕の中の物語は、文字でできているのかなと思うことがあります。
――お好きな作家はどなたでしたか。
藤澤 中学生くらいまでは、赤川次郎さんを読んでいました。たぶん、赤川次郎さんの作品で読んでいない本はないくらいには。
――赤川次郎さんは多作で知られていますが、ほとんど読んでいる?
藤澤 そうですね。『三毛猫ホームズ』シリーズはもちろん、当時発表されていた本は全部読んでいると思います。赤川次郎さんの物語ってカジュアルなミステリが多いんですが、時々すごく文学性が高い作品もあるんです。小中学生のころにそういった作品群に触れていたことが、現在につながっているなと思いますね。
――ご自身の作風に影響をしていますか?
藤澤 わからないですが、赤川次郎さんの作風はミステリなので、読んでいるとびっくりするポイントがたくさんあるんです。どこでびっくりさせることで物語を面白くするのか、というところは参考になっているかもしれません。
――ほかにお好きな作家はいますか?
藤澤 高校時代に読んだ村上春樹さんの作品ですね。「ものを作る人になりたい」と思ったきっかけも、村上作品だったと思います。『風の歌を聴け』を読むと、書くものが全て村上春樹文体になってしまう気がして、怖くて再読できないですね(笑)。
あと、宮本輝さんも好きです。とくに好きだったのは『錦繍』という往復書簡形式の小説。自分にとっては、物語の在り方を考える原点になった作品なのかなと思います。
――村上春樹さんの作品から受けた「ものを作る人になりたい」という思いが結実して、1998年よりシナリオアシスタントとして『ドラゴンクエスト』シリーズの開発に参加されています。藤澤さんにとって、『ドラゴンクエスト』シリーズの現場とはどんなものだったのでしょうか。
藤澤 僕の師匠は堀井雄二さんという『ドラゴンクエスト』を最初に作った方なのですが、若いころは堀井さんの思考したことを僕たちスタッフが実現していく、というような関係の中で「もの作り」をしていました。
そのとき堀井さんが教えてくれたのは「『ドラゴンクエスト』はシナリオじゃない」ということでした。「肝心なのは体験なんだ」と。その話は、若いころの僕にはよくわからず、何でこんな風に考えるだろうと反発心を持ったこともありました。堀井さんからはさぞ面倒だっただろうと思うのですが、堀井さんは根気よくいろいろなことを教えてくれました。
そして現在、時を経て、自分の会社で若いスタッフと一緒に仕事をしていると、当時の堀井さんが言っていたこととまったく同じことを彼らに言っているんですよ(笑)。過去に自分がわからなかったんだから、若い子には伝わらないだろうなと思いつつも、そう言うしかない。本当に因果は巡ると思っています。
――堀井雄二さんの教えが、いま藤澤さんが作っているARGにも受け継がれているんですね。
藤澤 はい。「体験をつくれば、そこに自然と物語が生まれる」と教えていただきました。『ドラゴンクエストV』で結婚相手を選ぶイベントがあるのですが、「相手を選ぶ」という体験があるから、そこに物語が生まれる。当時は「そんなものかな」ぐらいに思っていたんですけど、今になって痛いほどよくわかる。ありがたい話をしてもらっていたんだなと思っています。
――最後に「第四境界」がARGを作るうえで大切にしていることをお聞かせください。
藤澤 「第四境界」は僕の会社ストーリーノートと、株式会社マレとの合同でやっています。ものを作る役割の人間は「面白いものができればそれで充分」という思考に陥りやすいんですが、それは錯覚にすぎない。作るだけでなく、ちゃんと人に届けることを緻密に考えなければならない。そこの部分に関しては、マレのみなさんがすごく知恵を絞り、僕たちが作ったものが一番大勢に届く施策を考えてくれています。その届ける施策のために、作っているものの内容を変えることもよくある。クリエイティブとパブリッシュはタイヤの両輪であって、どちらも等しく大事なのだから、決して傲慢になってはいけない、ということをよく話をしています。
あと、グループでものを作るということは、他人と力を合わせないといけない。ものを作る人はどうしても視野が狭くなり、他人に対して不寛容になってしまいがちなんですけど、常に「他人と仕事をしやすい人でいなさい。常に笑っていなさい」と言っています。そういった心構えがないと、ものを作る人としてスタート地点にも立てない。そういった、人とものを作る上での心構えは、大切にしていますね。
●インフォメーション
書名:『人の財布~高畑朋子の場合~』
定価:1,430円(税込)
あらすじ:
夜中に何げなくフリマサイトを眺めていた主人公は、とある商品に目がとまる。
それは、高畑朋子という人物の保険証が入ったままの、中古財布だった。
主人公は、娘を誘拐された高畑朋子という母親、当時ニュースでも取り上げられていたこの誘拐事件を思い出す。なにかに吸い寄せられるように、その財布を購入し、入っていた保険証やレシートを手掛かりに当時の事件の真相を解明しようと奮闘するのだった――。
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