■父・グリシャの“視線”が捉えていた未来の記憶

 エレンの父、グリシャ・イェーガーが、調査兵団を志す息子に対し、「帰ったら…ずっと秘密にしていた地下室を… 見せてやろう」と告げる重要な場面がある。この時、玄関に立つグリシャの表情をよく見てほしい。彼の視線は室内にいる幼いエレンではなく、彼の横の何もない空間に向けられているように描かれているのだ。

 この奇妙な視線の正体が明らかになるのが、第121話「未来の記憶」である。このエピソードでは、エレンと異母兄ジーク・イェーガーがグリシャの過去の記憶をたどるという特異な体験が描かれる。そして、そこで明かされるのが「進撃の巨人」の継承者は、未来の継承者の記憶を“視る”ことができるという驚くべき能力の存在だ。

 つまり第1話のあの瞬間、過去のグリシャは自らの記憶を巡る「未来のエレン」の存在を、その記憶を通じて“視ていた”のである。彼が見つめていたのは、目の前の幼い息子ではなく、時を超えてそこに存在していた“成長後のエレン”だったのだ。

 物語中盤までの最大の謎である「地下室」の存在を提示する場面でありながら、その裏ではすでに“未来の記憶”という、後半で明かされる「進撃の巨人」の能力がさりげなく描かれていた。この事実には、あらためて驚愕してしまう。

■「いってらっしゃい」の謎と“13ページ”の符号

 最後に紹介するのは、物語冒頭の居眠りのシーンだ。夢の中でエレンはミカサから「いってらっしゃい エレン」と声をかけられ、なぜか涙を流しながら目覚める。これから目を覚ます相手に対して「いってらっしゃい」と言うのは、明らかに不自然な言葉だ。さらに、この時のミカサの髪は、直後に自分を起こす現実の彼女よりも少し短いようにも見える。

 この謎が解けるのは、なんと物語のクライマックスである第138話「長い夢」だった。巨人の口内でエレンの首をミカサが切り落とす直前、彼女が口にした言葉こそが「いってらっしゃいエレン」であった。これはエレンが物語の開始時点で、自身の「進撃の巨人」の能力を通じて、自らの最期につながる記憶に触れていたことを示唆しているのだ。彼が大泣きして目覚めた理由にも筋が通る。

 そして、このシーンには、もう1つ見逃せない仕掛けがある。問題の場面が描かれているのは、第1話のちょうど「13ページ目」なのだ。この「13」という数字は、九つの巨人の継承者が13年で命を落とす“ユミルの呪い”を想起させる数字だ。単行本の第1巻、全54ページで構成される第1話の中で、このページにのみ番号が振られている点も意味深である。

 このように何気ない導入シーンの中に、物語の結末へとつながるイメージと数字が重ねられていた。この一連の描写が持つ意味は、もちろん初見では到底気づくことはできないが、物語を最後まで読み終えたあとから驚きがやってくる。

 

 今回紹介した以外にも、エレンが寝ていた木に刻まれた「十字(墓標)」を思わせる傷跡など、第1話の細部には意味深な描写が随所に配されている。これらの事実から、第1話は単なる物語の「始まり」ではなく、最終回までを見据えた緻密な「設計図」そのものだったといえるだろう。

 何気ない違和感が、壮大な物語を経て、やがて1本の線へとつながっていく快感——それこそが『進撃の巨人』という作品の凄みだ。

 完結から時が経った今、あらためて第1話を開いてみてほしい。そこには結末を知った今だからこそ気づく、新たな発見と興奮が待ち受けているはずだ。

 

 

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進撃の巨人(1) (週刊少年マガジンコミックス)
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