1980年から90年代にかけて『週刊少年ジャンプ』(集英社)の黄金期といわれているように、同時期の少女漫画も大ヒット作が多数生まれた黄金期だったのかもしれません。
そんな中、白泉社が発行する『花とゆめ』には、『動物のお医者さん』(佐々木倫子さん)、『笑う大天使』(川原泉さん)、『パタリロ!』(魔夜峰央さん)、『ガラスの仮面』(美内すずえさん)といった個性的な連載作品が多く、当時の読者にとって聖域のような雑誌でした。
『花とゆめ』が誇る豪華ラインナップの中で、一際異彩を放ち、思春期の少女たちの心を大いにかき乱してくれたのが、日渡早紀さんの傑作『ぼくの地球を守って』でした。
「宇宙」「前世」、そして逃げ場のない「密室」で繰り広げられるドロドロとした愛憎劇。本作が当時の読者に与えた衝撃は、数十年を経った今もなお消えることのない鮮烈な記憶として刻まれています。
そんな『ぼくの地球を守って』の連載をリアルタイムで第1話から追い、コミックスやドラマCDをボロボロになるまで見返していた筆者が、今あえて我々を魅了した『ぼく地球(タマ)』の複雑な恋愛模様について振り返りたいと思います。
※本記事には、作品の核心部分の内容も含みます。
■「前世ブーム」を巻き起こした衝撃のSFサスペンス
『ぼくの地球を守って(通称・ぼく地球)』は、1986年から約8年にわたって連載された全21巻の大作です。作者の日渡早紀さんは、『アクマくんシリーズ』や『記憶鮮明シリーズ』など、どこか斬新で鋭い感性が光る名作を数多く生み出しています。
作品の舞台は、連載当時から5年ほど未来の1991年。植物の心を感じ取る内気な女子高生・坂口亜梨子(ありす)は、隣家の小学生・小林輪を預かった際に、誤ってマンションのベランダから転落させてしまいます。
輪は奇跡的に助かったものの、目覚めた彼は前世の記憶という「毒」を抱えた別人へと変貌しており、物語が急速に動きはじめるのです。
さらに亜梨子のクラスメイトである小椋迅八と錦織一成の2人が共有する不思議な夢「ムーン・ドリーム」。月基地から地球を監視していた7人の異星人たち――という、壮大な「前世」の設定は、当時思春期だった読者の心を強烈につかみました。
作中では、彼らが前世の仲間を探すためにオカルト雑誌に投稿するという展開がありました。これは80年代当時の若者が抱えていた閉塞感や漠然とした不安感が「特別な誰かとつながりたい」「別の誰かになりたい」という願望とリンクした、「戦士症候群」と呼ばれる現象がベースになっています。
すると『ぼく地球』の物語に影響を受けた読者もそれをまねて「自分は月メンバーの○○なので仲間を探しています」などと雑誌に投稿する人が続出。あまりの反響に、作者自らがコミックスに「このマンガは“フィクション”です」と念押しする異例の事態に発展。いかに『ぼく地球』に深くのめり込んだ読者が多かったのかを物語っています。
本作が当時の読者に与えた最大の衝撃は、「前世」という設定を単なるファンタジーにせず、緻密なSF設定とリアルな心理描写に落とし込んだ点にあります。
現世と前世が複雑に交差するミステリー要素と、紫苑(シオン)と秋海棠(シュウカイドウ)を巡る巧妙なミスリード。そして前世の記憶がよみがえるたびに暴かれるのは、かつての仲間たちが抱えていた後悔や葛藤でした。
何より読者を戦慄させると同時に惹きつけてやまなかったのが、因縁の果てに渦巻く、生々しくドロドロとした愛憎劇です……。


