■「自分のいる世界だけを見ていると、縮小再生産になってしまう」
――この本の中には、気になるワードやフレーズがいくつもありました。その中からいくつかピックアップしてうかがえればと思います。まず、脚本家の野木亜紀子さんとの対談で、「ドラマを書くならドラマばかり見ていては駄目」と野木さんが話されていました。それに対して林さんは、漫画の世界でも同じようなことがあるとして、「僕、漫画家さんにドキュメンタリーをお勧めするんですよ」とおっしゃっていました。
林 自分のいる世界、同じ世界の中のものだけを見ていると、縮小再生産になってしまうんですよね。例えば、いま「巨人が敵になって人類存亡の危機をかけて戦う」漫画を描くとしたら、それなりに覚悟を持って描かないと、絶対に「似ている」と言われてしまう。漫画しかインプット先がないと、新しいものや面白いものは生み出しにくいんじゃないかと思うんです。
だから、自分のいる場所と出来るだけ離れたところでインプット先を見つけてほしいと思います。対談で「ドキュメンタリーを」と言ったのはあくまで例。海外の小説でもいいし、「何? そのエンタメ見たことない」というものでもいい。そういうものを摂取して、いまの日本の漫画ファンに対して何を提示すると面白いと思ってもらえるのかを考えてほしいんです。
――インプットの仕方、そのセレクトを少し離れたものにする、というのは一般の我々にも通じる話ではないか、と思いました。
林 どんな仕事にも活きるかどうかはわからないですけど、意外とみんな縮小再生産になってしまう、というのはあると思うんですよね。ちょっと視野を広げてみるというのは大事かもしれないですね。
――今のお話につなげると、石井玄さんとの対談で、林さんは、『熱闘甲子園』を録画しているとおっしゃっていました。そのチョイスは少し意外で、面白いなと感じました。
林 『熱闘甲子園』って、毎年描かれるドラマのパターンがちゃんとあるんです。だいたい30分間の番組の中で、1日3つとか4つの切り口で、出場校それぞれにフォーカスして作られているんですけど、見事に伝統芸みたいな構成なんですよ。それに、撮ったものを当日の夜には放送しているので、スピード感もすごいものがあるんです。さすがにシナリオがあるんだろうなって思っているんですけど、それでも素材の料理の仕方とか、本当にプロフェッショナルの仕事だと思っていて。そういう意味で勉強になりますね。
――そこもまた林さんのインプットの幅広さだな、と。
林 いやそんなことないですよ。きっと、皆さんがいろいろなものを見ていて、そして僕は僕の見方をしてると思います。ゲームに熱中してそこから何かを得る人もいるし、人それぞれ。そこに優劣はないし、その人の仕事にもよると思いますしね。
僕らはエンタメの世界で仕事をしていますが、エンタメには「なにそれ? 新しい!」って感じてもらえる要素がすごく大事で、強い。だから、それを探し続ける日々なんです。その探し方もやっぱり人それぞれ、「このやり方が正解」ってことはないんじゃないかなって思います。
【プロフィール】
林士平(りん・しへい)
漫画編集者、ミックスグリーン代表取締役。現在の担当作品は『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『ケントゥリア』『野球・文明・エイリアン』『こころの一番暗い部屋』『WITCHRIV』。過去の立ち上げ作品は『青の祓魔師』『この音とまれ!』『ファイアパンチ』『怪物事変』『左ききのエレン』『地獄楽』『カッコカワイイ宣言!』『ルックバック』『さよなら絵梨』他多数。また、アニメ・舞台・イベントの監修も手掛けている。
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