■猛威を振るう、人間の心の闇…(美樹)

 物語は当初、デビルマン対デーモンの戦いを主軸に描かれるが、終盤では疑心暗鬼に陥った人間こそが恐ろしい敵として牙を剥くこととなる。

 ついにデビルマンであることを知られた明は、居候していた牧村家を追われる。しかし、ヒロインの美樹だけは、恐れながらもどこかで明のことを信じ続けていた。

 しかし、そんな彼女のもとに突如、暴徒の群れが襲いかかる。

 明がデビルマンだったという事実、そして両親が捕らえられたことから、暴徒たちは美樹すらも「悪魔の娘」と断定。なんと彼らは、容赦ない“悪魔狩り”を始めたのだ。

 覚悟を決めた美樹は仲間とともに果敢に立ち向かうが、数の多い暴徒には敵わず、ついに自身も群衆に捕らえられてしまう。

 作戦を終えた明が美樹を救うために戻ってきたとき、彼が目にしたのは実に衝撃的な光景であった。

 美樹は体をバラバラにされ、その首は暴徒らが掲げる槍の先に突き立てられていた。その凄惨な光景に激しく絶望した明は、感情の爆発とともにデビルマンの能力を解き放ち、またたくまに暴徒たちを焼き尽くした。

 すべてを失った彼は、物言わぬ美樹の首を抱きしめて涙を流し、この悲劇を仕組んだサタンへの激しい憎悪を燃え上がらせるのであった。

 冒頭から登場し、愛嬌のあるコミカルな言動で物語を和ませてきた美樹。いわば“日常の象徴”として描かれていた彼女が、なすすべもなく蹂躙され、恐怖にひきつった首を晒される光景は、あまりにも無慈悲だ。

 デーモンよりも恐ろしいのは、恐怖に駆られて理性を失った人間そのものだったのかもしれない。作者はヒロインの無残な死をもって、人間の内に潜む真の悪魔の姿を読者に容赦なく突きつけたのである。 

 

 人の心を持ちながらもデーモンと戦うデビルマン。しかし、その激闘の余波は力を持たない無関係な人々にまで及び、多くの命が奪われてしまう。

 無慈悲なデーモンのみならず、恐怖に駆られた人間が他者を攻撃する描写は、人間の心に潜む弱さや脆さ、残虐さを感じざるをえない。

 登場人物たちの救いのない結末は、連載終了から数十年が経過した今もなお、多くの読者の心に鮮烈な記憶として焼きついている。

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