現代に蘇った超常的な生物「デーモン」と、人間たちの壮絶な戦いを描いた永井豪氏の『デビルマン』。1972年より『週刊少年マガジン』(講談社)にて連載された本作は、少年誌の枠を超えた容赦のない暴力描写と救いのない絶望的な展開で、多くの読者に強烈なインパクトを与えた。
なかには、か弱く無力な存在がその命を容赦なく刈り取られ、思わず目を背けてしまいたくなるような場面も克明に描かれている。
今回は、そのおぞましい描写によって多くの人々にトラウマを残した、登場人物たちの無残な最期について見ていこう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■突如豹変した両親の正体は…(ススム)
太古の眠りから目覚めたデーモンたちは、他の生物を取り込み、融合する恐ろしい能力を使い、徐々に人間社会を侵食していく。デーモンのなかには人間そのものに擬態するものもいるのだが、その恐怖を存分に描いたのが本作のヒロイン・牧村美樹の弟である健作(愛称:タレちゃん)の友達・ススムのエピソードだ。
ある日、タレちゃんはススムと一緒に公園で遊んでいた。ところが、なぜかススムは遅い時間になってもかたくなに家に帰ろうとしない。なんと彼は「ママにいじめられるから帰りたくない」と目に涙を浮かべ、その場を動こうとしないのである。
タレちゃんの家で夜を明かそうと夜道を帰る2人だったが、なんとそこにススムの母親が現れる。しかし、一見すると母親は笑顔を浮かべる穏やかな人物で、その予想外の姿にタレちゃんも拍子抜けしてしまう。
なおも警戒していたススムだったが、「パパが早く帰ってくる」と聞き、ようやく母親とともに自宅に戻ることにした。
だが帰宅した途端、母親は豹変する。これまでとは打って変わって、恐ろしい形相でススムを威嚇し、秘密をばらしたことを叱責するのだ。
恐怖に身をすくませるススムだったが、そこに偶然父親が帰宅。一目散に駆け寄り、父に助けを求める。間一髪、助かった……と思いきや、帽子を脱いだ父の姿は人間のそれでなく、凶暴な犬の頭部を持つ異形の姿だった。
ススムの両親はすでにデーモンに乗っ取られており、エピソードの最後のページには、血まみれになったススムの頭部が転がるという、悲惨な光景が描かれている。
無垢な子どもが犠牲になる容赦ない展開とともに、デーモンが静かに人間社会を侵食していく不気味な恐怖を読者に植えつけた。
■少女を生きたまま利用する、卑劣な手口…(サッちゃん)
本作では、前述したススムのように幼い子どもがデーモンの犠牲となる悲劇があとを絶たない。続いては、その幼き命が卑劣なかたちで利用されたエピソードを紹介しよう。
主人公・不動明のもとを訪ねてきたのは、かつて隣に住んでいた少女・サッちゃんだ。明のことを“恋人”と慕う彼女は、再会の時間を過ごした後、1人で新幹線に乗り帰路についた。
しかし、この新幹線がデーモンらによって占拠されてしまう。
デーモンから誘い出されて現場に駆け付けた明の耳に届いたのは、死んだと思われていたサッちゃんの声だった。
暗闇に浮かび上がった彼女の顔は、なぜか「あたし死んだの」と涙を流している。彼女だけでなく、大勢の人々の声に混乱する明だったが、姿を現したデーモンの姿を見て、たまらず絶叫をあげた。
巨大な亀のような形状をしたデーモン・ジンメンの甲羅には、サッちゃんをはじめ、彼が手にかけた人間たちの頭部が、意識を保ったまま埋め込まれていたのである。
激しい悲しみと怒りを抱いた明はデビルマンに変身して立ち向かうが、ジンメンは甲羅の顔を盾にするという卑劣な戦法で攻撃を封じる。
万事休すかと思われたその時、サッちゃんが「こいつを殺して」と叫んだことで、明は覚悟を決める。そして、明の放った拳はサッちゃんの顔の一部ごと、ジンメンの甲羅を深々と貫くのだ。
勝利はできたものの、残された甲羅と人々の顔を前に、明はただ無言で立ち尽くすことしかできなかった。
幼い少女がデーモンに取り込まれ、生きたまま盾として利用される悪夢のような光景。そしてなにより、彼女の命を代償とした勝利の虚しさが、多くの読者に深い絶望感を植え付けたエピソードである。


