■首に視神経が通っている!?

 空手家・鎬昂昇の必殺技にも、驚くべきトンデモ理論が用いられていた。彼の「紐切り」という技は、相手の血管や神経、腱などを指で引きずり出し、切断するという恐ろしい必殺技である。その中で首に通っている神経を切り、視界を奪うという場面があった。

 技の描写を見ると、あたかも人間の首に視神経が通っているように描かれているが、実際には視神経は眼球の奥から脳へとつながっている。しかし、流れるような解説を聞いているうちに、本当の話のようにも思えて、つい信じてしまいそうになる。

 ちなみに首には視神経ではないものの、目とかかわりの深い神経や筋肉が集まっているのはたしかのようだ。

 さらに驚くべきは、この技を食らった兄の鎬紅葉が、自らの指で神経をつなぎ直して何事もなかったかのように回復するシーンである。これもまた常識を超えた離れ業といえるだろう。

■イメージだけで肉体が進化

 最後に紹介するのは、イメージによって骨格まで変えてしまうという理論だ。これは「空手界の最終兵器(リーサルウェポン)」こと愚地克巳が新技を開発した際に取り入れたトンデモ理論である。

 中国拳法の現役最高峰の達人・郭海皇から「加速のための関節などいくらでも増やせる」とアドバイスされた克巳。彼は「生物はこうなりたいというイメージによって進化してきた」と語ったが、当然すぐさま体の構造を変えることなど不可能だ。

 しかし郭海皇の言葉を信じた克巳は、自らに大量の関節があることを極限までイメージする。この時、克巳の全身の骨格が描かれたのだが、その描きこみの細かさ、リアルさは圧巻である。

 そして、そのイメージで放たれた渾身の一撃は、衝撃波だけで道場の窓ガラスをすべてたたき割ってしまうほどの威力だった。

 こうして短時間で肉体の進化を遂げた克巳ではあるが、とてつもない力にはそれ相応の代償が伴う。彼が新必殺技「真マッハ突き」を放った時、その反動で彼の腕はボロボロになってしまった……。

 

 『刃牙』シリーズに登場するトンデモ理論は、登場人物たちが自信満々で持論を語り、それを大真面目に実行するのが面白い。当然読者からツッコまれるのを想定した上での荒唐無稽な理論ではあるが、フィクションであることを前提とした“強引な説得力”があるからこそ、『刃牙』という作品が愛され続けているのだろう。

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