■フィアナに対する不器用で一途な愛

 キリコの魅力を語る上で欠かせないのが、ヒロインであるフィアナ(ファンタム・レディ)との関係です。物語の冒頭、軍の最高機密である「素体」としてカプセルの中で眠る彼女を見つけた瞬間から、戦うことしか知らなかったキリコの運命は一変します。

 二人の関係は、いわゆる「恋愛」の枠を飛び越え、同類や共犯関係に近いかもしれません。彼女との出会いによってキリコは軍を追われ、戦場をさまよう逃亡者となりますが、彼の最優先事項は常にフィアナであり、本人も無自覚な思いに突き動かされていました。

 中でも女性ファンの胸をときめかせたのは、いつも無表情なキリコが、フィアナの前だけで見せる「もろさ」や「執着心」の部分です。ふだんは感情を押し殺し、どのような窮地にあっても冷静沈着な男が、フィアナのことになると我を忘れてむちゃをします。そして彼女の安否を確認して安堵の表情を浮かべたり、ほほ笑んだりするのです。

 こうしたキリコが時々見せるギャップは、当時の女性視聴者を魅了するのに十分な破壊力を秘めていました。

 キリコとフィアナの絡みで忘れられないエピソードが、第29話「二人」の回。泥沼の内乱が続くクメン王国からシャトルで脱出した2人は、不思議な力で宇宙戦艦へと強制的に移動させられます。

 艦内を捜索していたキリコは、倉庫で見つけた酒でフィアナと乾杯するのですが、初めて口にした酒で「むせて」しまうのです。そんなキリコを見て、優しい笑みを浮かべるフィアナ。ようやく得られた2人の幸せな時間に、胸が高鳴った女性ファンは多いことでしょう。

■キリコが背負った「孤独の呪い」

 物語の終盤、キリコは自身が「異能者(異能生存体)」だったという事実を突きつけられます。それは、どれだけ絶望的な戦場でも死ぬことはなく、進化の頂点として生き残ることを宿命づけられた存在。いわば神に与えられた「呪い」のような異能です。

 この時、キリコが感じた圧倒的な孤独感を、ドラマチックかつ残酷なまでに際立たせたのが、銀河万丈氏による重厚なナレーションでした。ちなみに銀河万丈氏は、キリコを追い続けたギルガメス軍の情報将校・ロッチナ役も担当しています。

 銀河万丈氏による次回予告は、毎回強烈なインパクトがありました。たとえば「悪徳と野心、頽廃(たいはい)と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは惑星メルキアのゴモラ」といった詩的かつパンチのあるフレーズは、キリコの生きるストイックな世界観を見事に言語化し、視聴者の想像力を無限にかき立てました。

 また、『ボトムズ』といえば主題歌『炎のさだめ』を思い出すファンもいることでしょう。高橋監督が作詞を担当し、「炎の匂いしみついて むせる」といったフレーズは、本作のハードボイルドな世界観の代名詞となりました。

 ちなみに、この『ボトムズ』の「むせる」というワードはインターネットミームとしても広がり、世代ではないアニメファンにまで知られているほどです。


 『装甲騎兵ボトムズ』のアニメ放送当時、まだ10代だった筆者はキリコという男の背中に、アニメキャラとしての“かっこよさ”以上の何かを感じていました。それは、過酷な現実の中で決して折れない強さであり、ふとした瞬間に垣間見える人としての温もりだったのかもしれません。

 キリコの生き様に胸を躍らせた思春期の記憶は、今も色あせることなく心に刻まれています。

 そしてサンライズ50周年という大きな節目に発表された、完全新作『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』。テレビアニメの放送から40年以上の月日が経ちましたが、新しい『ボトムズ』の物語が今の我々に何を伝えてくれるのか、「苦いコーヒー」でも飲みながら続報を待ちたいと思います。

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