サンライズ50周年を記念して『装甲騎兵ボトムズ』シリーズの完全新作『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女(はいいろのヘクセ)』が、2026年に展開されることが発表されました。
今作のメガホンをとるのは押井守監督、アニメーション制作はサンライズとProduction I.Gが強力なタッグを組みます。
『装甲騎兵ボトムズ』は1983年に放送開始となったテレビアニメに端を発し、後日談のOVAや小説などを含む一連のシリーズを指すロボット作品。主人公の「キリコ・キュービィー」は、どんなに困難な状況でも必ず突破口を開く“不死身の男”。昭和のロボットアニメの主人公らしからぬ、寡黙で無愛想なところが特徴的でした。
しかし、そんなキリコは時折人間味のある部分を見せることもあり、視聴者をとりこにしていきます。そんなキリコに魅了され、当時、自室に彼のポスターを飾るほど夢中だった筆者が、この異色の主人公の魅力を振り返ってみたいと思います。
※本記事はテレビアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の核心的な内容も含みます。
■黙々と任務をこなす無口でストイックな男
1983年(昭和58年)から始まったテレビアニメ『装甲騎兵ボトムズ』は、サンライズの「リアルロボット路線」における1つの到達点として高く評価される作品です。
舞台となったのはアストラギウス銀河を二分する百年戦争の末期。一介の兵士キリコ・キュービィーが、ある作戦の中で軍の最高機密である「素体」と呼ばれる“謎の女性”を目撃したことで、銀河を揺るがす大騒動に巻き込まれていく物語です。
本作が画期的だったのは、主人公がただの一兵士にすぎず、主役機もガンダムのような唯一無二の“フラグシップ”ではなかった点です。
キリコが搭乗する人型ロボット兵器「AT(アーマードトルーパー)」は、いわば使い捨ての量産品。簡単に壊れるもろい機体で最前線に送られることから、兵士たちは自嘲を込めて「ボトムズ(最低の野郎ども)」と称していました。
作品タイトルは機体名などではなく、過酷な底辺を生きる兵士たちや、その厳しい状況で生きる人々のことも指しているのです。
この硬派な世界を創り上げたのが高橋良輔監督。そしてキリコの凛々しい造形を生み出したのは、後に『鎧伝サムライトルーパー』なども手がけるアニメーターの塩山紀生氏です。そして、キリコの独特な声を担当したのが、お笑いトリオ「怪物ランド」で活動していた郷田ほづみ氏でした。
キリコは男前ではありますが、華やかさとは無縁で、いつも野暮ったい戦闘服を着用している泥臭い人物。しかし、地獄のような戦場をたった1人で生き抜く卓越した技術と、生存のために最善を尽くす孤高の姿に、視聴者は「無機質な戦士」としての美学を感じたのです。
特にキリコについて印象的だったのが、従来のロボットアニメの主人公像をくつがえす、抑揚を抑えた「ボソボソ」としたしゃべり方。
郷田氏は自身のYouTubeチャンネルにて当時のことを振り返った際、監督やディレクターから「いっさいの感情を排するように」と徹底した演技指導があったことを明かしています。
あまりにも厳しい制約の中で、一時は降板を考えるほど生みの苦しみを経て確立されたのが、あの「キリコらしさ」が詰まった“低体温な声”だったのです。
他者を寄せつけないキリコのストイックな佇まいと、根底に秘められた人間味。その絶妙なバランスが、昭和の女性アニメファンを魅了した最大の理由だったのかもしれません。
ロボットアニメとしては異色の主人公であるキリコは、雑誌『アニメージュ』(徳間書店)の「アニメグランプリ 1983年男性キャラクター部門」で1位を獲得するほどの人気キャラとなりました。


