■渋谷事変での「復活」と「暴走」…自死に込められた想いとは?
そして甚爾は五条に敗れて命を落とすが、「渋谷事変」においてオガミ婆の降霊術により、再び現世へと引きずり戻されることとなる。しかし、それは復活と呼ぶにはあまりにもいびつな形だった。
天与呪縛の肉体は術者の制御を超え、甚爾は器が壊れるまで本能のまま戦い続ける「殺戮人形」に変貌し、暴走。特級呪霊・陀艮を一方的に蹂躙し、次にその圧倒的な武力が標的としたのは、皮肉にも実の息子・恵である。
自我を失い、ただ強者を求めて彷徨うだけの亡霊となった彼は、本来ならばそのまま恵をも喰らい尽くすと思われた。
だが、恵との激闘の最中、甚爾は一瞬、驚いたような表情を見せる。目の前に立つ若き術師が、かつて自らが手放した息子であることを悟ったのだ。そして脳裏に去来するのは、生前の記憶と「恵をお願いね」という、この世で唯一愛した女性から託された願いであった。
「オマエ名前は」その問いに、目の前の青年は迷いながらも「伏黒……」と答えた。その言葉を聞いた刹那、甚爾の口元には微かな笑みが浮かぶ。「禪院じゃねえのか よかったな」と。そして次の瞬間、彼は迷いもなく自らの手で頭を貫き、再び死の淵へと帰っていったのである。
自我を失い、ただ殺戮を続けるだけの存在となった自分が生き続ける限り、いつか必ず息子を殺してしまう。自死という選択は、暴走した術式さえも超える、文字通り命を賭した息子への「拒絶」であった。
それが、呪いに塗れた彼に許された最後の「父親としての責任」であり、愛する女性と交わした約束を唯一果たせる方法だったのだろう。
二度の死に際に思い出したのは愛した人の面影だった。その女性との間に生まれた息子が、自分を否定した「禪院」ではなく、共に歩もうとした「伏黒」の姓を名乗っている事実を知ったとき、甚爾の魂は少しばかり救われたのかもしれない。
唐突に訪れた自死という幕引きは、あまりに不器用であり、しかし誰よりも深い愛に満ちていたように感じてならない。


