2026年1月より、テレビアニメ第3期「死滅回游 前編」の放送が開始された『呪術廻戦』。芥見下々氏の描く本作において、圧倒的なまでの肉体の強さと、あまりにも哀しい生きざまで読者の心をつかんで離さない男がいる。それは「術師殺し」の異名を持つ伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)だ。
若き日の五条悟を死の淵まで追い詰め、一度は物語から退場したはずの彼が、再び姿を現した瞬間は衝撃的だった。そして、その後の彼の最期もまた、あまりに唐突で静かなものであった。
なぜ彼はあの瞬間、自ら命を絶ったのか。甚爾という男が背負い続けた孤独と、息子・伏黒恵へのいびつで不器用な想いを紐解いていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■禪院家という「歪み」が生んだ怪物の孤独
甚爾を語る上で、呪術界の御三家の1つ・禪院家との因縁は避けて通れない。「禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず」という歪んだ選民思想が蔓延する一族において、呪力ゼロの「天与呪縛」として生まれた甚爾は、存在そのものを否定され続けてきた。
当主・直毘人や、その息子・直哉、直毘人の弟で真希・真依の父である扇、そして実の兄である甚壱。そうした血族に囲まれながら、彼は家族としての情愛など一片も介在しない過酷な環境で育った。幼少期から受けてきた嫌がらせは苛烈を極め、口角の右側に残る古傷はその時についたものであることが、公式ファンブックにて明かされている。
強大な呪力を捨てる代わりに得た肉体「フィジカルギフテッド」も、一族の中では救いになどならなかった。むしろそれは、呪力至上主義の彼らにとっては嘲笑の対象でしかなかったのだ。甚爾にとって呪術界には居場所などなく、ただ復讐すべき場所でしかなかったのである。
■唯一の光であった「恵の母」
そんな甚爾が、唯一「禪院」という呪縛を忘れられたのが、後に恵の母となる女性との出会いだった。婿入りして「伏黒」の姓を名乗ったのは、忌まわしい過去を捨て、新しい人生を歩もうとした彼なりの決意だったのだろうか。彼女と過ごした時期、甚爾の荒んだ心は生涯で唯一“丸く”なっていたという。
だが、運命は非情だった。その幸福な時間はあまりにも短く、彼女は恵を出産して間もなくこの世を去ってしまう。唯一の光を失ったことで、甚爾は再び孤独の深淵へと突き落とされることになる。
その後の彼の行動は、父親として、あるいは人間として最低だった。津美紀の母親と再婚したかと思えば、幼い子どもたちを置いてギャンブルと放浪に明け暮れる。さらには、実の息子である恵を、あれだけ憎んでいた禪院家に高値で売り払う約束まで交わした。


