日向夏氏による人気ライトノベル『薬屋のひとりごと』。架空の中華風帝国・茘(リー)を舞台に、後宮という華やかでありながらも閉ざされた世界で巻き起こる怪事件や無理難題を、薬師としての深い専門知識で解決していく女官・猫猫(マオマオ)の活躍は、今や幅広い層を魅了している。
アニメの今後の展開も見逃せない。2026年10月からは待望の第3期の放送も控えており、ファンの期待は高まるばかりだ。そこで今回は、これまでに放送されたアニメのエピソードの中から、その緻密なロジックと洞察に思わず唸らされた、まさかのトリックを3つ厳選して紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■真面目な武官・浩然を襲った身近な調味料「塩」の恐怖
まず1つ目は、第9話「自殺か他殺か」だ。
このエピソードで描かれたのは、武官・浩然が宴席の最中に急死した事件である。一見すると、働き過ぎや酒の飲み過ぎによる心不全のようにも思える状況だったが、猫猫は酒瓶に残ったごく微かな塩の結晶を見逃さなかった。そして、その背後に潜む「悪意」の可能性を指摘してみせる。
酒の席、仕事一筋で口うるさい彼へのちょっとした悪戯だったのか、あるいは周到に計画された殺意によるものか。浩然の飲む酒には、宴席にいた何者かによって大量の塩が混入されていた。一般に、塩分を一度に大量摂取すると体内の水分バランスが崩れ、高ナトリウム血症を引き起こす危険があるとされている。酒による脱水作用が重なれば、なおさらリスクが高まる。
しかし、浩然は最愛の妻子を流行り病で亡くした過度なストレスから、塩味だけが分からなくなる味覚障害の一種を患っていた。味の異変に気づけない浩然は、いつものように酒を煽り、結果として引き起こされた高ナトリウム血症によって、帰らぬ人となってしまったのである。酒瓶に残った塩の結晶は、そんな逃れようのない「真実」を静かに物語っていた。
この回で描かれたのは、派手な毒薬が登場するわけではない。だが、身近な調味料が命を奪う凶器へと変わる、現実に即した静かな恐怖であった。
■自然界には存在しない「青い薔薇」を生み出した驚異の園芸学
次は、第22話「青い薔薇(そうび)」。奇抜な難題が印象的なエピソードである。
「変人軍師」とも称される羅漢から壬氏に突きつけられたのは、“来月の園遊会に青い薔薇を用意してほしい”、という無理難題だった。薔薇の季節ではないうえに、そもそも青い薔薇など自然界には存在しない。
この難題を解決したのも、やはり薬師としての知識を植物にも応用した猫猫である。園遊会の当日、わずかにその花弁を覗かせる神秘的な「青い薔薇」を、帝の前に献上してみせたのだ。
トリックの正体は極めて現実的だ。蒸し風呂を使った徹底的な温度管理によって開花時期を調整し、さらに白いバラを青い色水に浸すことで、茎の道管を通じて色素を吸い上げさせ、その花びらを内側から青く染め上げたのである。ちなみにこの方法は、現代でもフラワーショップなどで用いられている技術だという。
不可能に見えた難題を、奇跡ではなく知識の積み重ねで可能にする。この回は、猫猫の知恵が最も分かりやすく映えたエピソードの1つだろう。事前に帝へ種明かしを済ませ、後出しの難癖を封じていた点も含め、痛快さが際立っていた。


