■なぜ特異体質の鬼・禰󠄀豆子を手中に置かなかったのか?

 無惨の失態の中でも、最も致命的だったのが「禰󠄀豆子を放置したこと」ではないだろうか。無惨によって鬼化した炭治郎の妹・竈門禰󠄀豆子は、のちに“太陽を克服する”という無惨が千年以上追い求めた悲願を達成するなど、他の鬼とは一線を画する特異な存在だ。

 そもそも無惨の目的は、太陽の下を歩ける「完全体」になることであった。そのためにより強い鬼を作り、太陽を克服する個体が現れた時、その鬼を吸収しようと目論んでいた。

 禰󠄀豆子は鬼になった当初から人間を食べることなく、睡眠で体力を回復させ、鬼の本能に抗い兄を庇うなど、前例のない特異体質であることがたびたび描かれていた。無惨からすれば、禰豆子こそ自分の支配下に置き、最も注意深く監視すべき対象だったはずだ。

 しかし無惨は、竈門家を襲い彼女を鬼に変えた後、鬼化を見届けることなく立ち去っている。もしも無惨がその場に留まり、彼女の特殊な反応を確認していたら、間違いなく自らの支配下に置いただろう。

 禰󠄀豆子をみすみす野放しにして鬼殺隊側につけてしまったことは、随一のミスであったといえる。

■配下の鬼たちに「人間の心」を残しすぎた支配の甘さ

 無惨はより強力な鬼を求めて血を与え続け、その精鋭を「十二鬼月」として自身の直属の部下とし、重要な仕事を任せていた。しかし、彼らの中には「人間の心」が根強く残っていた者も多い。

 例えば、無惨のお気に入りでもあった上弦の参・猗窩座は、人間だった頃の記憶を失っており、強さのみを求める鬼だった。しかし、無限城での戦いにおいて、土壇場で人間時代の記憶が蘇り、過去の蛮行を悔いて自ら消滅するという儚い最期を迎えている。

 また、上弦の陸である堕姫と妓夫太郎も、人間時代の過酷な環境が生んだ兄妹の強い絆が、鬼となってからも根幹にあり続けた。結果的に無惨から「堕姫が足手纏いだった」と表されるほど、その絆が弱点となり敗北している。

 人間であった頃の記憶を失くした状態でも、奥底に眠る「人間の心」が戦いの妨げとなった上弦の鬼たち。もしも無惨が本当の意味で彼らを完璧な支配下に治め、一切の人間性を排除した鬼を作ることができていたら、戦局は全く異なるものになっていたはずだ。

 結果的に鬼たちの心の隙間を埋められなかった無惨の統率者としての資質の欠如が、土壇場での逆転劇を許す要因となったのである。

 

 最凶にして最悪のラスボスである無惨だが、彼は本能のまま衝動的に動くあまり、いくつもの過ちを犯していた。とはいえ、そのおかげで物語はより面白くなっていったのも事実だ。

 もしも無惨がもっと狡猾でしたたかだったなら? そう考えると恐ろしい……。彼の「痛恨の失敗」という隙を突き、鬼殺隊はどう戦っていくのか。今後も劇場版で描かれる最終局面からまだまだ目が離せない。

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