『週刊少年サンデー』(小学館)で1994年から連載が続く、青山剛昌氏の漫画『名探偵コナン』。主人公の江戸川コナン(工藤新一)が、どんな難事件でも冷静に推理し解決していく作品だが、シリーズを振り返ると、すべてが完璧な論理だけで解決してきたわけではない。
ほんの少し条件が違っていたら……。ほんの一手、選択を誤っていれば……。命を落としていたかもしれない場面も、確かに存在する。今回はそんなコナンの推理の中から、結果的に「運任せ」で解決したレアな事件を振り返っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■東都タワー爆破予告事件:偶然が解決の鍵となった一幕
まずは、コミックス36巻、37巻に収録されているエピソード「揺れる警視庁 1200万人の人質」である。
警察に強い恨みをもつ犯人が仕掛けた、連続爆破予告事件。コナンは暗号を追う中、爆弾の1つが「東都タワー」に仕掛けられていると推理し、高木渉刑事と共に急行する。エレベーターの天井裏に仕掛けられた爆弾を発見し、その解体作業を始めるのだ。
だが、爆発まで残り3秒になった時、犯人は“より大きな爆弾”の在処を示すヒントを与えるという、あまりにも悪魔的な取引を持ちかけてくる。爆発寸前の状況で場所を推理し、現場に辿り着き、さらに爆弾を解除する——常識的に考えれば不可能に近い条件だ。
実際、かつて刑事部捜査一課強行犯三係にいた松田陣平刑事は犯人との同様の取引に応じ、爆弾の在りかを突き止めたものの、爆発に巻き込まれて殉職している。たとえ場所が分かったとしても、生きて戻れる保証はどこにもないのだ。
それでもコナンは、この無謀とも言える条件を受け入れた。そして極限状態の中で爆弾の在りかを見抜き、爆発直前に解除するという離れ業を成し遂げたのである。
だが、この推理は決して万全なものではなかった。爆破までの時間がわずか3秒という中、コナンが爆弾の在りかに辿り着く決定的な手がかりとなったのは、爆破の標的が幼なじみ・毛利蘭の通う高校だったという一点だった。
「いるかもしれないんだそこに… この世で一番死なせたくない大切な奴が…」その想いが、爆弾の在りかを読み解く鍵となり、結果的に推理は的中する。そして、爆弾は密かに処理され、現場を見張っていた犯人も逮捕。事件は無事に解決した。
しかし裏を返せば、もし標的がコナンにとって個人的な感情が絡まない別の施設であったなら、爆弾の在りかには辿り着けず、爆発に巻き込まれていた可能性も十分に考えられる。この事件は、コナンの推理が結果的に「紙一重の幸運」に支えられていたことが、強く印象に残る一件だった。
■劇場版『時計仕掛けの摩天楼』:論理を超えた運任せの「選択」
劇場版第1作『名探偵コナン 時計仕掛けの摩天楼』でコナンが挑むのは、建築家・森谷帝二による連続爆破事件である。コナンは公園や鉄道に仕掛けられた爆弾を次々と発見し、被害を食い止めていく。
しかし、最後の爆弾が隠されていた米花シティビルで、蘭が爆弾とともに閉じ込められてしまう。コナンの指示を受け、蘭は爆弾の解体に挑むが、最後は設計図に記されていない赤と青の2本の導線だけが残された。正解を導く手がかりはなく、どちらの導線を切るか——蘭は究極の2択を迫られてしまう。
結果として、蘭は「青」を選び、生還する。しかし、「赤」を切っていれば即爆発。成功と失敗の差は、完全に2分の1。まさに紙一重の決断だった。
蘭が赤を切らなかった理由は、「赤い糸は新一と……繋がってるかもしれないでしょ?」という、理屈では説明できない想いだった。最後に委ねられたのは、推理ではなく「運」。だがその選択は、新一と蘭の強い絆によって乗り越えられた——そう感じさせる、シリーズ屈指の名場面だ。


