半世紀以上の歴史を誇る『仮面ライダー』シリーズは、今や若手俳優の登竜門として広く知られている。その一方で、ファンの度肝を抜くような存在が、突如として作品世界に登場することがある。
ロックシーンの象徴、国民的歌手、そして時代劇のスター。そんな「別ジャンルの頂点」に立つ人物たちが、特撮という舞台に本気で挑んだ結果、単なる話題づくりにとどまらず、作品そのものをワンランク引き上げる出来事となった。
今回は、今も語り草となっているレジェンド級の出演者3名にスポットを当て、その登場が『仮面ライダー』シリーズにもたらしたインパクトを振り返っていく。
※本記事には各作品の内容を含みます
■ハードボイルドの哲学を注入した“おやっさん”『仮面ライダーW』吉川晃司
まず名前が挙がるのが、2009年公開の映画『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』に登場した、吉川晃司さんである。主人公・左翔太郎が「おやっさん」と慕う探偵業の師匠・鳴海荘吉を演じ、その圧倒的な存在感で観客の視線を釘づけにした。
荘吉が変身する仮面ライダースカルは、シルバーとブラックを基調にしたドクロモチーフの渋いデザインが印象的だ。だが、ファンの心をつかんだ最大の理由は別にある。それは、変身後も自らの手でハットを被り直す、その何気ない仕草である。一挙手一投足に宿るダンディズムが、スカルを唯一無二のライダーへと昇華させたのだ。
そして、シリーズを象徴する決め台詞「さぁ、お前の罪を数えろ」も、もともとは荘吉の言葉である。物語の原点となる「ビギンズナイト」において、未熟だった翔太郎を文字通り体を張って救い、その生きざまを示した姿は、視聴者にとって「理想の大人像」を強く印象づけた。
続編となる『仮面ライダー×仮面ライダーOOO(オーズ)&W feat.スカル MOVIE大戦CORE』でも、吉川さんは荘吉役を続投。その圧倒的な存在感は、ビジュアルの渋さだけから来るものではない。アクションを自ら演じきるため、撮影期間中は毎日3〜4時間の筋力トレーニングを欠かさなかったという。
怪人役の多くが20代の若手俳優という体力勝負の現場を、吉川さん自身は「ドキドキもんだった」と振り返っている。しかし、そのストイックな姿勢があったからこそ、劇中のアクションは圧巻のひと言に尽きるのである。
■主題歌アーティスト自らが伝説の鬼に…『仮面ライダー響鬼』布施明
2005年から放送の『仮面ライダー響鬼』で、ひときわ異彩を放っていたのが、第32話「弾ける歌」から小暮耕之助役として登場した布施明さんだ。
実は布施さんは、本作の主題歌『少年よ』と『始まりの君へ』を担当している。作品を音楽で支える国民的歌手が、そのまま物語の重要人物として登場するという大胆なキャスティングこそ、『響鬼』という作品の独自性を象徴するポイントのひとつだろう。
布施さんが演じた小暮は、かつて「疾風鋼の鬼」と呼ばれた伝説の鬼であり、魔化魍と戦う組織「猛士」の中でも屈指の実力者という設定だ。現在は猛士総本部の開発局長として、後方から前線を支える立場にある。
鼻歌交じりにバイクに乗る姿は飄々としているが、後進の指導となると一転して容赦がない。鍛錬の足りない者には「バカ者どもが!」「未熟者!」と一喝し、手にした笏(しゃく)で尻を叩く。その厳しさは、あのヒビキですら思わず背筋を伸ばすほどであり、後輩たちにとっては少々理不尽なくらい厳しい大先輩として描かれていた。
なかでも強く印象に残るのが、劇中で披露される歌唱シーンだ。場の空気などお構いなしに、皆の前で朗々と歌い続ける小暮。その歌声は言うまでもなく本物であり、布施さんならではの圧倒的な歌唱力が、結果として独特のシュールさとコミカルさを生み出す迷シーン(!?)となっている。
伝説の鬼としてのたしかな実力を持ちながら、場の空気などお構いなしに周囲を巻き込んでいく。その勢いとおせっかいぶりを違和感なく成立させた小暮耕之助というキャラクターは、まさに布施さんという存在があってこそであり、『仮面ライダー響鬼』を語るうえで欠かせない名キャラクターとして、今も多くのファンの記憶に残っているのだ。


