往年の人気漫画には、登場人物が嫌な予感に“ハッ”とする、いわゆる「虫の知らせ」のシーンがよく登場する。大切な人が亡くなったときや、事故などでピンチを迎えたとき、それを知る由もないはずのキャラクターが不思議な力で何かを察知するのである。
現実世界でも第六感のような不思議な体験は見聞きするが、しかし、悪いことが起きた瞬間にコップが割れたり、不吉な流れ星が夜空を横切ったりするケースは、そうそう起こることではないだろう。しかし、かつての人気漫画にはこうした「虫の知らせ」がドラマチックに描かれており、仲間や愛する人の危機を見事に察知する場面が描かれてきた。
そこで、現実ではなかなか見られない、昭和から平成にかけての漫画で定番でもあった「虫の知らせ」のシーンを振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■まずは王道…誰かのピンチにハッとする虫の知らせ
大切な人のピンチを主人公などが直感的に察知するシーンは、漫画のジャンルを問わずよく見られる王道の演出である。
例えば、鳥山明さんの『ドラゴンボール』では、恩師である亀仙人がピッコロ大魔王との対決で命を落としたとき、遠い場所にいた主人公の孫悟空が「は!!」と何かを感じ取り、「な…なにかが……」と不吉な予感を的中させている。
また、魔人ブウとの戦いで、ベジータが自爆という壮絶な最期を遂げた際にも、飛行機を操縦中の妻・ブルマが「な……なに……!? こ…この胸騒ぎは……」と、やはり夫の死を直感的に感じ取っている。
同様の描写は、少女漫画にも見られる。池野恋さんの人気ラブコメディ作品『ときめきトゥナイト』でも、主人公・江藤蘭世がピンチに陥った際、恋人である真壁俊が遠くで何かを感じ取り、ハッと後ろを振り向くシーンが印象的だった。
こうした嫌な「虫の知らせ」を感じるシーンは、人気作品において数多く見られる。その理由の1つとして、物語の緊迫感を高め、いかにその状況が深刻なのかを読者に伝える効果が挙げられるだろう。
■ガチャーン! 何かを感じたときに手が滑る虫の知らせ
続いて紹介したいのは、特に少女漫画によく登場していた、静寂を破ることで危機を知らせる演出である。それが、登場人物が不吉な予感に襲われた瞬間、持っていたコップなどを「ガシャーン!」と落として割ってしまう、という描写である。
バレーボールをテーマにした、浦野千賀子さんのスポコン漫画『アタックNo.1』にも、このような描写がある。
主人公・鮎原こずえの恋人である一ノ瀬努は、ある日、電車の事故に巻き込まれて亡くなってしまう。努が電車に衝突したまさにその瞬間、家にいたこずえは手にしていたコップをガシャンと落としてしまい、「ちょっと手がすべっちゃったの……」と、不安な様子を見せている。
また、大和和紀さんの『はいからさんが通る』でも、同様の描写が登場する。
主人公・花村紅緒の許嫁である伊集院忍はシベリアへ出兵し、戦場で敵の銃兵に攻撃を受け、爆撃に巻き込まれてしまう。その瞬間、日本の紅緒の家で飾られていた忍の写真立てが突然落ち、ヒビが入るのだ。それを目にした紅緒は「まさか少尉の身に何か…」と胸騒ぎを覚えるのであった。
危機を察知して何かを落とすという演出は、昭和に放送されたドロドロ展開の大映ドラマなどでもよく登場していた。実際にはなかなかない「虫の知らせ」ではあるが、愛する人の危機という目に見えない出来事を表現するには非常に効果的な描写だろう。


