■怒涛の連勝劇! 柔が見せた「格の違い」

 自分の不甲斐なさに打ち震える花園。その一方、無理やり試合に出ることになってしまい、「どーしてくれるのよ!!」と怒り心頭の柔。その横では、すべてが思惑通りに進んでいることに満足し、「クククク!!」と不敵に笑いながら茶をすする祖父・滋悟郎。まさに本作きってのトリックスターといえよう。

 しかし、試合が始まると、柔の“天才ゆえの悲しき性(さが)”が炸裂する。頭ではわざと負けようと考えているのに、体が勝手に反応してしまうのだ。

 次鋒戦では、相手が動いた瞬間に鮮やかな「背負い投げ」で秒殺。続く中堅戦でも、相手の勢いを利用した「巴投げ」で一本。

 嫌々やっているのに、誰よりも強い。この“心と体のギャップ”こそが、本作のヒロイン・猪熊柔の最大の魅力なのである。

 だが、副将戦で試合の空気が一変する。柔の「内股」が炸裂するも、惜しくも場外となり、ポイントにはならない。「本当に……こいつ強い!!」。柔の実力を肌で感じた相手は、勝利のためになりふり構わず本気になったのだ。狙うは柔の華奢な足。執拗な足払いを受け、柔のくるぶしは赤く腫れ上がってしまう。

 激痛に顔をしかめ、主審に棄権を告げようとする柔。しかし、ふと視線を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、必死に声援を送る部員たちの姿だった。とりわけ、花園に至っては、ボロボロになって号泣している。

 これでは棄権などできるはずもない。柔は覚悟を決めると、相手の大技をかいくぐり、電光石火の「腕ひしぎ十字固め」を決める。「まいった」のひと言で一本をもぎ取り、勝負の行方は大将戦へと持ち越されることとなった。

■全国3位の実力者・佐々木との「大将戦」

 いよいよ大将戦。相手は巌流寺高校の主将・佐々木だ。彼はなんと、高校選手権全国3位という本物の実力者である。

 圧倒的な体格差に加え、副将戦のケガで軸足の踏ん張りがきかない柔は、佐々木に軽々と投げ飛ばされ「有効」を奪われてしまう。そのまま男子の巨体に抑え込まれ、万事休すかと思われた。

 しかし、ここからが柔の真骨頂である。彼女は楽々と佐々木の巨体をひっくり返すと、逆に「上四方固め」で抑え込む。はじめこそ「女子に抑え込まれてラッキー」と高をくくっていた佐々木だったが、5秒、10秒と時間が経過しても、まったく動くことができないことに気づく。

 ひっくり返った亀のようにバタバタともがく全国3位と、それを逃がさないよう抑え込む小柄な女子高生。そのシュールかつ残酷な構図のまま、30秒が経過。その瞬間、完璧な抑え込みによる一本勝ちで、武蔵山高校奇跡の奇跡的な逆転勝利が決まったのである。

 敗れた佐々木は、柔道場をあとにする柔を見送りながら静かに呟いた。「金メダルに国民栄誉賞…夢じゃないあのコなら…」と。それは、柔というミラクルガールがこれから世界を舞台に大活躍することを予感させる、非常に印象的なラストとなっていた。

 

 “普通の女の子になりたい”と心から願いながらも、ひとたび畳の上に立てば条件反射で体が動き、男子選手をものともしない圧倒的な強さで無双してしまう柔。彼女自身の葛藤と、暴走気味の周囲が生み出すドタバタ劇こそが、『YAWARA!』の真骨頂であり、その魅力のすべてがこの「男子柔道部対抗戦」に凝縮されていたといえるだろう。

 あらためて振り返ると、この「男子柔道部対抗戦」は、長く続く物語の方向性を決定づけた、まぎれもない初期の傑作エピソードだった。

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