■ベス役を競うもマヤの才覚に敵わず…水無月さやか
亜弓や歌子のようにマヤと渡り合った女優がいる一方、残念ながらその才能の影に隠れてしまった者も少なくない。その1人が、劇団つきかげのメンバー水無月さやかだ。
中学生ながらずば抜けた演技の才能を持っているとして劇団つきかげに入団したさやかだが、後から入ってきたマヤに猛烈な勢いで追い抜かれてしまう。
その象徴的な出来事が、劇団つきかげ初の発表会『若草物語』のベス役を巡る一件だ。さやかはベス役を熱望していたが、抜擢されたのは、当時まだ素人同然であったマヤだった。稽古すらまともにこなせないマヤを尻目に、さやかはベス役をやりたい気持ちを抑えられない。改めてベス役を選ぶ適正テストでは、月影千草に参加を直談判したほどである。
だが、適正テスト本番では、1週間かけてベスを完璧に理解したマヤが圧巻の演技を披露し、他の候補者を圧倒する。さやかもその才能にすっかり呑まれ、最後は「ベスに負けないようにサリー役を演じる」とマヤの実力を認めるのだ。今振り返ってみると、さやかはマヤの才能を際立たせるための、いわば「かませ役」となった最初の女優といえるだろう。
その後、さやかはマヤとすっかり打ち解け、良き友人の1人となる。さまざまな苦難に襲われ続けるマヤにとって、彼女はかけがえのない存在なのである。
師匠の月影千草をして「あの子は天才よ…!」と言わしめたマヤの天賦の才能を疑う人はいないだろう。芝居に命を燃やすマヤの演技は、巨大な台風のように周囲を巻き込み、共演者は呑まれるか、立ち向かうかを選ばされる。
マヤという天才と競う彼女たちの物語も『ガラスの仮面』の大きな見どころなのである。


