姫川亜弓に姫川歌子、水無月さやかも…『ガラスの仮面』天才・北島マヤと競った天才女優たちの画像
『ガラスの仮面』第11巻(プロダクションベルスタジオ)

 「おそろしい子!」

 このあまりにも有名なセリフは、名作演劇漫画『ガラスの仮面』(美内すずえ氏)の主人公、北島マヤの代名詞である。一見すると平凡な少女が、ひとたび舞台に立てば心から役になりきり、観客を圧倒する。その芝居は、まさに「おそろしい!」も納得の強烈さだ。

 だが、舞台に上がるのはマヤだけではない。マヤの才能に食らいついていった者、真っ向からぶつかった者、そしてその影に隠れてしまった者……本作には、マヤと同じ舞台に立つさまざまな女優が登場する。

 今回は、天才・北島マヤと競い合った女優たちの中から、特に印象深いキャラを紹介していこう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■『ふたりの王女』でマヤ以上の評価を得た永遠のライバル…姫川亜弓

 マヤと競い合った女優と言われれば、誰もが姫川亜弓を連想するだろう。彼女は、まだ役者ですらなかったマヤの素質をいち早く見抜き、その才能に複雑な感情を抱く、宿命にして永遠のライバルだ。

 今回は、2人がWヒロインとして共演し、しのぎを削った舞台『ふたりの王女』にスポットライトを当ててみよう。

 亜弓にとって、今回の舞台はマヤと直接競える待望の機会であった。復讐の王女オリゲルド役に抜擢された亜弓は、5kgの減量を伴うハードな役作りの末に本番を迎える。舞台に上がる頃、彼女の心はすでに姫川亜弓ではなく、王女オリゲルドそのものだった。

 オリゲルドを演じる中で「まったく別の人格をもった人間に身も心もなりきる」という感覚を会得した亜弓は、『ふたりの王女』の主役を見事に演じきった。息を呑むほどの迫力を放つ彼女の演技は観客を終始圧倒し続け、“まるで亜弓1人が主役”とされるほどの高い評価を得るのである。

 しかし、それでも亜弓の完全な勝利とはならないのが、マヤの「おそろしい」ところである。千秋楽の後、亜弓は初めて掴んだ「他人になりきる」感覚についてマヤに明かすと、彼女はポカンとして、こう返すのだ。

 「あの…あの あたしよくわからない… どうして亜弓さんがそんなことをいうのか」

 「だって あたしいつもそうだもの」

 自分が懸命に掴んだ極意を、マヤはごく当たり前のことだと思っていた。この事実に亜弓はショックを受けつつも、それ以上に闘志を燃やす。マヤの才能に何度叩きのめされても前を向く精神的な強さこそ、亜弓の魅力なのだろう。

■マヤとの共演を“闘い”と称した大女優! 姫川歌子

 亜弓の母親にして稀代の大女優、姫川歌子もマヤと演技で競い合った1人だ。彼女たちが共演したのは、ヘレン・ケラーとその家庭教師アニー・サリバンを描いた演劇『奇跡の人』でのことである。

 この舞台でヘレン役はマヤと亜弓がそれぞれ演じるWキャストとなり、歌子は両者のヘレンを相手にするサリバン役を務めることになった。当初は大女優と天才少女の母子共演として注目を集めた『奇跡の人』だったが、いざ舞台が始まると、その評価は一変することとなる。

 マヤが演じるヘレンはまるで野生動物のように自由奔放であり、世間が抱いていたヘレン像とはまるで違うものだった。その異質な怪演を目の当たりにした歌子は、“思う存分闘ってみたい”という衝動に駆られ、稽古とは次元の違う演技でマヤのヘレンと真っ向からぶつかり合う。

 縄で相手を縛ったり、皿を両手に持って乱闘したり、全力で闘う歌子とマヤ。2人が見せた“演技”を超えた“本気”のぶつかり合いは、観客の胸を打った。終演後、とめどない拍手が会場を包む中、闘いを終えた歌子はマヤに敬意を表し、その頬に優しくキスをするのである。

 身も心もヘレンになりきったマヤを相手に、互角以上の演技で渡り合い『奇跡の人』を大成功に導いた歌子。その天才にヒケをとらない風格は、まさに大女優のそれにふさわしいものだった。

  1. 1
  2. 2
  3. 3