『週刊少年サンデー』(小学館)で1994年から連載が続く青山剛昌氏の国民的作品『名探偵コナン』。その物語に新たに加わった重要そうな人物の1人が、コミックス第91巻で初登場した「若狭留美」だ。彼女は、江戸川コナンたちが所属する帝丹小学校1年B組の副担任として姿を現した。
初登場時のエピソードで若狭はドジな教師を装いつつ、圧倒的な戦闘能力と鋭い洞察力を披露。その“ただ者ではない”様子から、黒ずくめの組織のNo.2「ラム」の有力候補と疑われることになる。右目の不調、並外れた戦闘力、偽名を思わせる名前など、どれもラム像に重なる要素ばかりだったからだ。
「ラム候補」として注目を集めた若狭留美。彼女にまつわる謎は、どのように明かされていったのか。張り巡らされた伏線とその回収を振り返っていこう。
※本記事には『名探偵コナン』コミックス未収録の重要なネタバレを含みます。コミックス派、アニメ派の方はご注意ください。
■「ラム候補」としてのミスリードと明かされた正体
若狭は登場当初、黒田兵衛、脇田兼則と並ぶ「ラム候補」の1人として描かれていた。
特に、時折右目が見えていないかのように振る舞う描写は、灰原哀が語った“ラムは左右どちらかの目が義眼”という組織内のうわさと合致し、読者の疑念をかき立てた。第97巻では若狭が右目を押さえて苦しむ姿も描かれ、コナンも「やはり右目に...障害が...」と疑惑を深めていた。
しかし後に義眼ではなく、極度のストレスを感じると一時的に右目が見えなくなる症状のためだと判明。ラム候補としての疑いを深めたこの伏線は、巧みなミスリードとして機能した。
名前のアナグラムも、読者を悩ませた仕掛けの1つである。若狭留美(WAKASA RUMI)からは、「RUM(ラム)」「ASAKA(浅香)」という文字が取り出せる。さらに、「W」を反転させて並び替えることで「RUM IM ASAKA(ラム、私は浅香だ)」あるいは「ASAKA IM RUM(浅香、私はラムだ)」、「IM ASAKA RUM(私は浅香=ラムだ)」などの文章が浮かび上がってくる。
浅香とは、17年前に起きた「羽田浩司殺人事件」の重要参考人であり、組織と深いかかわりがあるとされていた人物だ。そのため、若狭については「ラム説」、「浅香説」、そして「ラムかつ浅香説」などが飛び交っていた。
この伏線についてはコミックス第104巻で回収される。彼女の正体は「レイチェル・浅香」であり、組織によって大切な人たち──アマンダ・ヒューズと羽田浩司を殺害された過去の持ち主だった。これによりラム説は完全に否定され、彼女が17年間背負ってきたものもようやく輪郭を現し始めた。
■“レイチェル・浅香”としての過去
若狭(浅香)の並外れた戦闘能力も伏線として重要だった。初登場時から、彼女はドジな教師という仮面をかぶりながら、裏では強盗団を一人で制圧し、公安の実力者である安室透ですら一瞬で気絶させる圧倒的な戦闘力を見せてきた。強盗団に対して放った「覚悟はできているか?」「此の世を離れる… 覚悟だよ…」という挑発的なセリフは、決して大げさなものではない。
その強さの理由は、彼女がアマンダのボディガードを務めていた過去が物語っている。アマンダは組織も注目するアメリカの資産家であり、そんな要人を警護していた経験と実績が、浅香の戦闘能力を裏づけている。
浅香が常に忍ばせている将棋の駒「角行」もまた、長く注目されてきた伏線である。実はこれは、17年前の事件で命を落とした羽田浩司が最期に託した形見であり、彼女の生きる理由そのものでもあった。
この駒をめぐる謎は、第104巻で羽田の最後の言葉とともに回収。「『遠見の角に好手あり』ってね!」「これを持っていれば敵に見つかりにくいし…」「ずっと睨みを利かせていれば… いつか反撃も… 出来ますよ…」というかつての羽田の言葉が、今もなお浅香の胸に生きていることが描かれた。


